研究概要 |
本研究では、遺伝子操作技術を用いて齲蝕の原因菌であるStreptococcus mutansの分子量19万のタンパク質抗原(PAc)をコ-ドする遺伝子を乳酸菌に組み込んだ齲蝕ワクチンの開発を試みて、以下の結果を得た。 1.S.mutans MT8148株(血清型c)のpac遺伝子をクロ-ン化し、その全塩基配列を決定した。その結果、PAcをコ-ドする遺伝子は4,695個の塩基対からなることが明らかになった。これは1,565個のアミノ酸からなる分子量170,773のポリペプチドに対応する。 2.PAcの生物学的機能を解明するために、クロ-ン化したpac遺伝子を利用していくつかの変異株を作製した。PAc欠落株では、PAc産生株に比べて菌体疎水性が著しく低くかった。PAc欠落株の唾液で被覆した歯面への付着能は、PAc産生株に比べて著しく低かった。これらの結果から、S.mutans菌体表層のPAcは、歯面に吸着された唾液タンパク質との疎水性結合を介した歯面への菌体付着に関与していると考えられた。 3.Streptococcus sobrinusの分子量19万のタンバク質抗原(PAg)をコ-ドする遺伝子をクロ-ン化し、その塩基配列をpac遺伝子のものと比較したところ、両遺伝子の中流域において高い相同性が認められた。 4.S.mutansのpac遺伝子をシャトルベクタ-pSA3 に連結し、pSM1と名付けた組換えプラスミドを作製した。このプラスミドで乳酸菌の1種であるStreptococcus lactis を形質転換した。この組換え乳酸菌は菌体内にPAcを産生した。ついで、この組換え乳酸菌の死菌体をマウスの経口投与したあとで、血清中のIgG抗体価と唾液中のIgA抗体価を測定した。その結果、PAcに特異的な血清IgGや唾液や唾液IgAが誘導された。
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