平成元年度は前年度に購入、完成した装置を用いて、トリチウムの放射壊後に発生する音響を詳細に測定した。その結果いくつかの新しい事実がわかって来たのでここにまとめておく。 まず音響シグナルのパタ-ン分類から作業を始めた。音響はいわゆる突発型のものが現われ150μsくらいの時間で減衰する。さらに詳しく見ると、少なくとも3種の成分、A型、B型、C型がある。A型は200kHz前後、B型は400kHz以上、C型は100kHz前後の音響で、A型がもっともしばしば現われる。これらの成分が複合した形で現われることもある。興味があるのはたとえばB型にひきつづきA型が現われるように見える場合がある。またA型が時間差をもっていくつか繰返しているように見えることがある。さらにA型に続いてC型が現われる場合がある。 このような結果はまったく新しいものであるが、以前にBetteridgeらが化学反応後の音波発生を測定した例と比較することができる。かれらは音響パタ-ンにはガス発生型と亀裂発生型があることを述べている。われわれの測定結果は放射壊変についてであり、用いている物質もまったく違うが、A型はかれらのガス発生型に似ており、またB型は亀裂発生型に似ている。 そこで実際にトリチウム壊変によって生成する^3Heが系外に放出されているかどうかを確める実験をおこなった。トチリウム線源を密閉系におき、そこにたまったガスを四重極質量分析計に導くと、明らかに質量3のピ-クが認められ、その出現電圧は24eV前後となって、^3Heの放出が確認された。 以上のことからA型は^3Heの放出のさいに発生する音響であることが有力になった。音響シグナルは発生源付近の状態を反映していると思われ、今後いろいろの方面に新しい問題提起をしている。
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