研究分担者 |
小野 雅敏 電総研, 極限技術部, 部長
清水 肇 電総研, 極限技術部, 室長
水谷 亘 電総研, 極限技術部, 研究員
濱 清 早稲田大学, 人間科学部, 教授 (90028267)
伊藤 悦朗 早稲田大学, 人間総合研究センター, 助手 (80203131)
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研究概要 |
昨年度完成した『生体膜直視用走査型トンネル顕微鏡(STM)』は,光顕(OM)との組合せによりSTMでの観察部位を同定することが出来,かつ走査範囲が最大20μmx20μmまで設定出来るものであった.本年度はこのSTMーOMシステムを用い,生細胞膜の観察に世界で初めて成功した.膀胱ガンの細胞T24及びネズミの卵巣線維芽細胞CHOを炭素基盤HOPGに培養し,細胞が常に培養液で覆われている状態を保ちながら,STM観察を行なった.この時のバイアス電圧は8.0Vと通常より高めに,またトンネル電流は0.2nAと通常より少な目に設定する必要であった.得られたSTM像はOM観察された生細胞の輪郭を正確に再現していた.またSTMは本来,立体構造の情報を入手することが出来るものであるが,実際に本研究では,生細胞膜表面の凹凸及び基盤における細胞の付着状態を数十nmの分解能で観察することが出来た.ところで,細胞膜のような導電性の低い試料は,STM観光に必要なトンネル電流を期待することが出来ない.そのため,何故STMによって細胞膜が観光され得たのかは未だ不明である.しかし,細胞表面を覆っている培養液(電解質)の量によってSTM観察の成否が決まるようであった.このことを考慮すると,STM探針によって我々が検出しているのは,細胞中を通過して来るトンネル電流ではなく,細胞膜表面を伝わって来るイオン電流の可能性が高いと考えられる.以上の事項から,生細胞膜のチャネルやレセプタ-がこのSTMによって観察されることが期待されている.しかしながら,培養液で覆われた細胞表面上の一点に対して,STM探針をV=8.0(V),I=0.2(nA)にセットし,そこで流れるトンネル電流のゆらぎを5分間に亘って測定してみると,z方向の大きさに換算して最大10.0nmの変動が起っていた.この変動を極力押さえなければ生細胞の微細構造は観測され得ないことが判明した.
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