研究概要 |
蛍光X線分析は高エネルギー物理学研究所、放射光実験施設BL4Aに於て、単色光を用いたSSDを検出器とするエネルギー分散法によって行った。2次元分析は、4象限スリットで数百ミクロンに紋ったビームをXZステージ上のサンプルの照射し、ステージを数百ミクロンステップでXZ方向に移動させ、各点の蛍光X線強度を測定し、パソコンにより濃度分布を2次元のイメージとしてカラーグラフィック表示した。今年度で以下の成果が得られたので、今後は実試料へさらに応用を試みる。 (1)放射光蛍光X線分析の非破壊高感度多元素同時定量性という長所を生かして、試料の産地、交易経路、制作年代などの推定のもとになる指標元素の定量法を開発した。岡山県とエジプトで発掘された遺物124種について分析を行い、結果をアルカリ石灰ガラスと釉薬の試料についてZr/Rb-Sr/Rb比としてグラフにプロットした所、5つのクラスターの形成が見られ、原産地との相関を示した。 (2)考古学試料の2次元イメージング分析法を確立した。本法により、試料の美術的模様と元素分布の対応が可能となった。イメージングを行った主な試料は、九谷焼きの皿、エジプト出土のエナメルガラス(12,3世紀)、エジプト18王朝のコアガラス、プトレマイオス朝のモザイクガラスである。いずれも、高感度(ppmレベル)で高分解能(100μ)の元素別2次元濃度分布が測定できた。 (3)X線吸収端のケミカルシフトを利用して、顔料、彩釉陶器の釉薬などに含まれる、有色金属元素の状態分析法の開発を行った。実試料として複数の原子価をとりうるFe,Cu,Mnによって異なった色に着色された古代ガラスを選び、X線吸収端スペクトルを測定した所、試料中の金属の原子価と着色の間に良い対応関係が見られた。本法により、原料産地や、焼成温度などの推定に有益な知見を得ることができるであろう。
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