本公募研究「中世イスラーム世界における「古代」の継承と創造」では、中世イスラーム世界の人々にとってイスラーム勃興以前の時代が、どのように認識され、理解され、また新たに作り直されていったのかという問題について、研究協力者である松本隆志(中央大学・非常勤講師)、大塚修(東京大学・助教)の協力を得て、多角的な視点から研究を行った。 本年度の成果は主に2017年1月29日に行われた公開研究会「中世イスラーム世界における複数の「古代」の継承と統合」において報告された。そこでは、松本隆志によって「中世アラビア語史料における古代イエメンの系譜叙述の比較」、大塚修氏によって「『王の書』の復活:ハムザ・イスファハーニーによる古代ペルシア史の再編」、亀谷によって「中世イスラーム世界における系譜の地理学と古代」と題した報告が行われた。これらの報告の内容は、報告者それぞれが持っていた問題関心と、三人によるイスラーム初期の世界史叙述であるヤアクービーの『歴史』の集中的な検討から生み出されたものであり、中世イスラーム世界において、古代というものが「単一の古代」としてではなく、「複数の古代」から成り立ち、かつ、それをイスラーム世界の世界観の中で統合し直すという営為が行われたことを検証するものとなっている。なお、これに対して、中世イスラーム史家である清水和裕氏(九州大学・教授)によるコメントが行われた。 また、二年間の研究内容を報告するものとして、新学術領域研究本体の主催によるシンポジウム「西アジア文明学の創出2:古代西アジア文明が現代に伝えること」(共催:古代オリエント博物館)内のセッション「西アジアの政治・宗教・文化」において報告を行い、その内容を一般に還元することも行った。この報告では、「複数の古代の統合」という点に重点を置き、世界史叙述における古代と事物としての古代を結びつけて提示することを試みた。
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