研究領域 | 古代アメリカの比較文明論 |
研究課題/領域番号 |
15H00713
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鶴見 英成 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (00529068)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ペルー / アンデス / 文明 / 神殿 / 形成期 / 年代測定 / コトシュ / 先土器 |
研究実績の概要 |
アンデス文明の神殿では一般的に、儀礼的な建築の更新が反復されていた。それが経済・技術・儀礼など社会の諸側面を発展させたと考えられるため、神殿の起源の解明は文明史研究の重要課題である。1960年代に日本の調査団はペルー北部山地のワヌコ市にてコトシュ遺跡を発掘し、神殿の登場が先土器段階に遡ることを証明した。近年では海岸部で先土器段階の神殿が多く発見され、文明の形成過程を具体的に解明すべく山地との比較が試みられているが、山地の神殿の年代と生業基盤の解明が遅れている点が問題となっている。本研究の第1の目的はコトシュ遺跡を再調査し、今日の水準で年代測定と有機遺物分析を実施することにある。またコトシュはワヌコ市を象徴する遺跡であり、50年ぶりの研究成果発信に際して、市民がいかなる関心を持って今後それを資源化していくのか、聞き取り調査により展望することが第2の目的である。 発掘調査を平成28年度に実施することとし、平成27年には主としてその準備を進めた。7月上旬に国内の連携研究者・研究協力者と課題・情報を共有すべく、東京大学にて会合を持った。ペルー人研究協力者とともに、ペルー文化省に対してコトシュ遺跡の測量調査を申請し、許可を受けて7月下旬に現地でトータルステーション測量を行った。通常、遺跡内は観光コース以外には立ち入れないが、政府の許可のもとマウンド上の遺構をすべて精査し、観光開発と経年による50年前との保存状況の違いを把握するとともに、新たな考古学的知見も得られた。これにより今後発掘すべき地点が選定できた。また現地の政治状況の把握、発掘において協力を仰ぐ必要のある修復保存専門家との意見交換など、調査の下準備を進めた。1月に現地研究協力者が写真測量によって遺構のデータを補完し、発掘調査の具体的な計画が決まった。これをふまえて申請書を作成し、年度明けにペルー文化省に提出するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の発掘調査の準備としては、現地調査、国内での活動ともに、おおむね問題なく進展した。また50年ぶりの日本人による調査は現地紙で報道されるなど、市民がコトシュ遺跡に関心を寄せていることが確認され、文化財の資源化についての研究についても展望がひらけた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、第1・第2の目的に即して、主として平成28年度に調査を推進する計画である。平成27年度の準備により、発掘調査の区画や方針を定めることができた。まず、1960年代には技術的な制約により正確な放射性炭素年代測定ができなかったため、タンデム加速器を用いた最新の技法で再度実施すべく、当時発掘した神殿群から再び炭化物を抽出する。また神殿群の床を部分的に掘り抜き、かつて到達しなかった深度まで発掘を進め、さらに下層に神殿が埋もれているかどうかを検討する。さらに、これまで発掘されていないマウンド東半分において、先土器段階に対応しうる遺構が確認されたため、それらを発掘区に含める。また随時、土壌から微細な有機遺物を採取する。 発掘調査の期間は8月中旬から9月下旬を予定し、日本およびペルーの研究協力者と合流して発掘調査にあたり、平行して市民への聞き取り調査、現地での成果発表を実施する。また採取した炭化物サンプルを日本に送付し、東京大学総合研究博物館年代測定室にて連携研究者らが年代測定を実施する。またペルー国立トルヒーヨ大学考古生物学研究室の協力によって、微細な有機遺物の分析を行う。 平成28年4月現在、すでに発掘申請書を提出し、現在ペルー政府の審査を受けているところである。通常の発掘調査よりも早めに手続きを開始したのは、コトシュはペルーにおいて著名な遺跡であるため、遺跡の現状維持のために調査内容が制限される、といった万が一の事態にそなえ、ペルー政府と十分に意見交換する時間を見込んだためである。 平成27年度の測量に関する成果発表を準備中であるが、発掘調査のあとさらに包括的な成果発表を行う。
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