研究領域 | 古代アメリカの比較文明論 |
研究課題/領域番号 |
15H00714
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸幸 名古屋大学, 文学研究科, 助教 (40273205)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 先古典期中期 / 先古典期終末期 / イロパンゴ火山灰 / チャルチュアパ遺跡 / エル・トラピチェ地区 |
研究実績の概要 |
考古学調査と火山編年学的調査からメソアメリカ文明の高精度編年体系の確立と巨大噴火インパクトの広域比較研究を実施した。 考古学的研究では、先古典期中期から同終末期にわたるメソアメリカ南東部太平洋側における広域編年を構築するため、チャルチュアパ遺跡エル・トラピチェ地区を中心に発掘調査を実施した。また、E3-1ピラミッド神殿とその前面に位置する広場を広範囲に平面発掘し、イロパンゴ火山灰(TBJテフラ)層、床、集石といった遺溝の重なりを層位的に確認した。そして、相対編年を組み上げるために各層から土器群の基礎資料を資料化した。 また、遺構に関連する良好な炭化物試料を年代測定した。 火山編年学的な研究では、高地と低地の巨大噴火インパクトを調査研究した。高地の都市部における噴火インパクトを解明するため、巨大噴火の産物であるイロパンゴ火山灰を中心に研究を実施した。エル・トラピチェ地区の発掘抗において、イロパンゴ火山灰(TBJテフラ)の一次堆積層を見いだし、分析試料を採取した。また、比較資料を得るためにエルサルバドル高地において、露頭のイロパンゴ火山灰の試料採取を行った。これらの試料は、日本に持ち帰り、鉱物組成ならびに化学組成分析を進めている。 ヒキリスコ湾岸低地の採取試料中で、イロパンゴ火山灰(TBJテフラ)の一次堆積層を確認し、採取した有機質堆積物の有機物含量および放射性炭素年代分析から、噴火前後の環境変化を分析している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
考古学的研究は、実施したチャルチュアパ遺跡エル・トラピチェ地区発掘調査から、先古典期中期~終末期に相当する層から良好な土器資料を得ることができた。また、相対編年を組み上げるためウスルタン式土器、素地・白色赤彩土器、黒褐色土器など当該時期に特徴とされる土器群の基礎資料を抽出し、資料化した。そして、遺構に関連する良好な炭化物試料についてAMS法による放射性炭素年代測定を行い、考古学資料で得られた相対編年に対する自然科学的方法で得られた絶対年代と比較した。 火山編年学的研究では、高地の都市部における噴火インパクトを解明するため、エル・トラピチェ地区の発掘区において、建造物や堆積層中にイロパンゴ火山灰(TBJテフラ)の一次堆積層を確認した。一方、ヒキリスコ湾岸低地においては、治安上の問題が生じたために、新たにハンドオーガーによる試料採取を行うことができなかった。しかし、以前にマングローブ林下でハンドオーガーを用いて採取した試料について、火山灰試料の化学組成分析や有機質堆積物の放射性炭素年代測定を実施し、噴火前後の堆積速度やバイオマスの変化を調査している。
|
今後の研究の推進方策 |
考古学的研究では、基本的に、出土遺物を整理分析すると共に土器分析を実施する。先古典期から古典期までの時期を画する装飾や形態上の要素を各層位毎に抽出して、時間軸に沿って相対的に変化する土器の特徴を確認する。特に、編年の鍵層となるイロパンゴ降下火山灰層の上層および下層で異なる要素を解明する。 さらに、土器分析の成果に基づいて、層位的に解明するべき地点やイロパンゴ降下火山灰層を境に発展もしくは衰退する土器群の要素が認められると期待される地点で補完的な発掘調査をエル・トラピチェ地区において実施する。そして、層位的な土器の変化と都市の建設活動・居住との関係を明らかにする。以上の調査から、先古典期中期から先古典期終末期までの確実な層位と関連付けられる遺物資料を得て、精緻な土器編年を確立する。 火山灰編年学的研究では、ヒキリスコ湾岸低地の採取試料から、湾内のマングローブ林下の有機質堆積物や挟在砂層の分析を進める。同時に、地形の分析から、イロパンゴ火山の噴火後の地形の変化を明らかにし、海岸部の環境史を復元する。 また、エル・トラピチェ地区の発掘を進める中で、遺構内におけるイロパンゴ火山灰の層位を確認し、都市部における降下火山灰による直接的な被害や影響の有無について検討できる資料を収集していく。 最後に、高地の都市文化と海岸文化における巨大噴火インパクトを比較する。そして、精緻な土器編年に基づく年代観に従って古代メソアメリカ文明における環境変化に対する一つのエピソードを復元する。
|