研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H00717
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 貴義 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60270790)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強誘電性 / 磁性 / マルチフェロイック / 超分子 / キラル磁性 |
研究実績の概要 |
磁性を示す金属錯体を基本ユニットとする強磁性“元素ブロック高分子”アニオンと、カチオン性超分子ローター構造からなる階層構造を構築し、新奇機能性を開拓する。2次元強磁性“元素ブロック高分子”と分子ローター型超分子強誘電体を複合化することより、マルチフェロイック材料の開発を目指す。キラルな超分子構造により、2次元強磁性“元素ブロック高分子”にキラリティを誘起し、キラル磁性に基づく光磁気機能性を開拓する。 また、本領域の他のグループが開発した光機能性、電子機能性“元素ブロック高分子” に本手法を適用して超分子機能ユニットを複合化し、種々の機能材料開拓につなげる、ことが本研究の目的である。本年度は、強磁性を示す[Mn(II)Cr(III)(oxalate)3]∞を二次元“元素ブロック高分子”のモデル物質として用い、有機アンモニウムとクラウンエーテルからなる超分子ローター構造を層間に導入して、弱い相互作用に基づく自己組織化により、安定な階層構造を与える系について、誘電応答を精査した。その結果、誘電損失の温度依存性測定において周波数依存性を伴う大きなヒステリシスが150 Kから250 Kに出現することが明らかとなった。この異常は、結晶構造に見られるカチオンのディスオーダーに関係しているものと考えられる。また、1-10 KHzの低周波数で、誘電損失は250 K付近から急激に上昇した。この温度はDSC測定から示唆されている、256 K付近の2次相転移温度と一致していることから、分子運動と誘電応答の相関が明らかとなり、マルチフェロイック性開拓へ向けての端緒を得たと考えられる。また、この系はキラルな空間群を持つことから、キラル磁性の可能性について検討を開始し、転移温度以下での磁気異方性について予備的な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強磁性[Mn(II)Cr(III)(oxalate)3]∞を有機アンモニウムとクラウンエーテルからなる超分子ローター構造と組み合わせた安定な階層構造において、詳細な誘電応答の温度および周波数依存性の検討を進め、誘電損失に異常を見いだした。大きな周波数依存性をもつことから、超分子カチオン内での分子運動に起因しているものと考えられ、マルチフェロイック性開拓に向けての端緒を得ている。また、転移温度以上での誘電損失の異常も、他の物性値の変化と符号しており、今後、これら物性の統合的な理解を進めることが可能となった。さらに、キラルな空間群に起因すると考えられる低温での磁気異方性についても予備的な結果が得られており、キラル磁性開拓の端緒を得ている。これらの結果から、研究は順調に進捗している評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
既に得られている、安定な階層構造を与える系について、誘電損失の温度依存性に異常について精査し、誘電率と分子運動との関係を明らかにしていく。また、非線形光学効果、熱測定などの結果も含め、転移点前後での物性発現の機序を明確にするとともに、系の持つ強誘電性を併せ、マルチフェロイック性などの開拓につなげる。また、これまでに見いだした系はキラルな空間群を持つことから、キラル磁性の可能性について精査する、すでに転移温度以下での磁気異方性について測定を進めており、キラル磁性に起因する物性の探索を進める。また、キラルな有機アンモニウムを用いてキラル超分子構造を構築し、強磁性を示す[Mn(II)Cr(III)(oxalate)3]∞からなる二次元“元素ブロック高分子”と組み合わせて階層化し、キラル磁性体の創成を目指す。光学的に純粋なキラル結晶を得るとともに、上記の結晶を含め、金属錯体のキラル構造に基づくキラル磁性とそれに付随する磁気二色性(MCD)やmagneto-chiral dichroism (MChD)などの光磁気機能性の開拓を進める。
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