研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H00725
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田邊 真 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (80376962)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ケイ素 / 白金 / オリゴシラン / σ共役 / 発光挙動 / 環状錯体 / π積層共役 / 脱水素反応 |
研究実績の概要 |
研究初年度では、本研究の骨子であるσ-π共役をもつオリゴシランブロックの合成と構造決定、側鎖平面置換基のπ積層構造による分光学スペクトル測定の評価を行った。平面置換基をもつ有機ケイ素モノマー(シラフルオレン)は、ジクロロシランを用いた改良法により高収率での合成が可能となった。そのケイ素モノマーと白金(0)錯体との反応は、連続的なSi-Si結合形成反応により環構造を有するテトラシラン白金錯体を与えた。その環状錯体からの脱金属反応を用いて、両末端に反応活性点をもつオリゴシランを合成した。X線結晶構造解析と各種NMR測定の結果、テトラシランは1) 側鎖芳香族置換基の面間距離が短いこと、2) 芳香族領域の1H NMRシグナルが高磁場シフトしており、固体及び溶液中においてπスタック相互作用が生じていることを明らかにした。このようにして、主鎖にSi-Si結合に由来するσ共役と側鎖に平面置換基の重なり構造に由来するπ積層共役との二重共役をもつ低分子重合体の合成法を確立した。共役系が拡張されたオリゴシランは興味深い光物性を示した。モノマーの最大吸収波長は芳香環π-π*遷移に帰属されるが、テトラシランの吸収波長はSi-Si結合から芳香環C=C結合へのσ-π*遷移が主成分であった。溶液中においてモノマーは強い蛍光発光を示すが、オリゴマー体の発光はその強度の低下が観測された。これは、近接した側鎖平面置換基のπスタック相互作用が光エネルギーを分散させ、消光したと考察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の基盤となるシラフルオレンモノマーの合成、オリゴシランブロックの合成法の確立、それらの構造評価と比較考察から側鎖間で生じるπスタッキング相互作用の存在を明らかにした。オリゴシランの構造決定には、単結晶X線構造解析、29Si核NMR測定、二次元HMBC測定を用いて、完全な帰属をおこなった。また、側鎖間のπ積層構造によりオリゴシランの消光作用を観測した。これらはアルコキシ基を導入したシラフルオレンオリゴマーの溶解度が向上することで、各種物性測定が可能となり、π積層高分子に関する知見を得た。これらの結果、申請時の研究計画に対しておおむね順調に進展し、論文発表(Chem. Lett. 2016, 45, 394)にも至った。 合成したオリゴシランは両末端にSi-H結合を有することから、これを元素ブロックモノマーとみなして高分子化反応を検討した。遷移金属触媒によるヒドロシリル化反応、ルイス酸触媒による脱水素ヘテロ原子カップリング法を検討したが、いずれもオリゴシランのSi-Si結合が切断される副反応を生じた。今後、高分子材料の創出を目指した本領域の研究では、オリゴシランの高分子化を検討する。また、アイソローバル類似の概念に基づいて10族金属以外の遷移金属(鉄、ルテニウム)を含む環状錯体の合成検討の結果、新しい遷移金属シリル錯体の合成に至った。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度では、シラフルオレンをケイ素モノマーとするオリゴシランブロックの合成を見出したが、環状錯体を利用した合成法では4量体のみしか合成できない。これは環状白金錯体の熱安定性が著しく高いことに起因する。次年度以降では、様々な鎖長を持つオリゴシランの合成法を確立することを目指す。これには、環状錯体が形成しない、それよりも速い重合速度でSi-Si結合が進行する、分子量が整った重合反応を見出すことが必須となる。そこで、白金と同族元素のニッケルに着目した。ニッケル触媒によるケイ素モノマーの脱水素重合反応関する報告例はいくつかあるが、系統的な研究成果や精密に制御された重合反応の開発例はない。今後の研究の推進方策として、熱的安定性が高く失活しにくいキレート化されたニッケル触媒に着目し、様々なケイ素高分子鎖長をもつオリゴシランブロックの創成を目指す。 新しいモノマーとして、電子供与性ビチォフェン環、電子受容性ビピリジン環等の平面置換基をもつモノマーの合成を検討する。これらの前駆体は既知化合物であり、本研究で見出したジクロロシランを用いた合成法を採用する。複数のケイ素モノマーを用いることで、ランダム及びブロック共重合体の合成を検討する。2種類以上の平面置換基をもつケイ素高分子は、側鎖に電子供与性置換基と電子受容性置換基が相互に重なるため、より強いπスタック相互作用を生じることが期待される。これらの検討により、共役が拡張されたケイ素高分子の合成と機能開発だけでなく、元素ブロック高分子へ向けた新しいマクロモノマーの一つとして貢献することを目指していく。
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