研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H00732
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
伊津野 真一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50158755)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | キラル高分子 / 不斉合成 / 高分子触媒 / キラル元素ブロック |
研究実績の概要 |
医薬品、農薬などの多くの分野で、光学活性キラル化合物の需要が急速に高まっている。これらのキラルファイケミカルズを効率よく合成するために不斉触媒技術が欠かせない。触媒反応は、基質分子の取り込み、適切な相互作用、高選択的反応、キラル生成物の放出の3つの基本過程から成り立っている。各過程で触媒が酵素のように高分子であることが重要であり、3つの過程をそれぞれ有利に進行させることができる。これまでの高分子不斉触媒はランダム構造の合成高分子の側鎖に触媒機能分子を結合させる手法がほとんどで、キラル高分子触媒の構造が不斉反応へ及ぼす影響については、系統的な検討がなされていない。本研究では、キラル元素ブロックとして遷移金属触媒を取り上げ、キラル元素ブロックを主鎖中に組み込んだキラル高分子触媒の合成法の確立を目指した。さらに、これらのキラル高分子触媒の性能を評価するためにに、水素移動型不斉還元反応に適応し、キラル元素ブロック高分子触媒の構造が不斉反応へ及ぼす影響について検討した。 遷移金属触媒については、キラルリガンドの高分子化を行った。キラルリガンドとしてジアミンモノスルホンアミドを利用するために、ジアミンモノアスルホンアミドの重合反応を検討した。 薗頭カップリング重合:両末端にプロパルギル基を有するキラルジアミンモノスルホンアミド二量体と芳香族ジヨード化合物を薗頭カップリング条件下で重合し、キラルリガンドの高分子化を行った。キラル高分子リガンドにIr錯体などの遷移金属錯体を用いて、キラル元素ブロック高分子触媒を合成した。 キラル元素ブロック高分子触媒の性能を評価するために、環状スルホンイミンの水素移動型不斉還元反応を行った。高分子触媒は高活性を示し、低分子触媒とほぼ同等の触媒活性を示すことが確認された。さらに高分子の不溶性を利用して、触媒の回収再使用が容易に行えることも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
キラルイミダゾリジノンをキラル元素ブロックとする高分子の合成法については、当初の計画であったイオン結合形成反応による方法、ポリエーテル型、ポリエステル型のキラル高分子の合成に成功した。さらに薗頭カップリング反応を利用したC-C結合型のキラル高分子についても合成法を確立することができた。キラル高分子の新しい合成法を提供することができた。また、上記キラル高分子は不斉Diels-Alder反応において低分子触媒と同等の触媒活性を示すことがわかった。さらに、キラル高分子触媒をビニルホウ素化合物とa,b-不飽和アルデヒドとの不斉1,4-付加反応では、低分子触媒を用いた場合、生成物のエナンチオ選択性は57% eeであるのに対して、高分子触媒では98% eeの高選択性を実現することを見出した。 以上のように、新たなキラル高分子合成法の確立と立体選択制を飛躍的に向上させる高分子不斉触媒の開発は、当初の計画以上に進展した内容である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でキラル元素ブロックの高分子化の手法について確立したが、キラル元素ブロック間を結合するリンカーまたはコモノマーについてはアキラル化合物を用いている。これらの部分についてもキラリティーを導入する方法を検討する。 本研究で開発した高分子不斉触媒は、対応する低分子不斉触媒の立体選択性を上回る能力を示すものがいくつか見つかっている。これらキラル高分子のコンフォメーションに関する情報をCD測定などを利用して明らかにする必要がある。 キラル高分子のコンフォメーションに関しては、上記のキラルリンカーまたはキラルコモノマーの導入によってもチューニングが可能である。触媒サイトのキラリティー、コモノマーのキラリティーおよび高分子のコンフォメーションが不斉触媒活性および選択性に及ぼす影響についてさらに詳しく検討を進める。
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