報告者はこれまでに、リン原子に中心性不斉を有するP-キラルホスフィンに着目し、これを光学活性元素ブロックとして用いることで主鎖骨格にキラルリン原子を有する光学活性オリゴマー、ポリマー、かん乗化合物の合成を行ってきた。その中で、P-キラルビスホスフィンのキラリティを環骨格に組み込んだ様々な光学活性ホスファクラウンを合成してきた。本年度は新たに環サイズの異なる光学活性ホスファクラウンを種々合成し、それらのアルカリ金属イオン包摂能を評価した。その結果、いずれの環サイズのホスファクラウンもアルカリ金属イオンと1:1で錯形成することを確認した。そして、ホスファクラウンが一般的なクラウンエーテルが好んで内包するアルカリ金属イオンより、ワンサイズ小さなイオンを選択的に内包することが分かった。例えば、18員環のクラウンエーテルはカリウムイオンを選択的に内包するが、同じ18員環のホスファクラウンはナトリウムを選択的に内包する。この一番の要因として、リン原子と酸素原子の原子半径の大きさの違いが考えられる。 加えて、P-キラルビスホスフィンを元素ブロックとして用いた新規大環状化合物を合成した。この環状化合物はπ共役系リンカーをかん骨格に有している。特筆すべきは環状化合物が円偏光発光を発現したことである。本化合物を希薄溶液中において光励起することにより、π共役系部位が絶対蛍光量子収率約80%で発光し、その円偏光発光の異方性因子は10の-3乗の桁に達し、有機化合物としてはかなり大きな値を示すことが分かった。
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