研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H00736
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 一生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90435660)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | かご型シルセスキオキサン |
研究実績の概要 |
シリカ化合物の中で、かご型シルセスキオキサン(POSS)は (RSiO1.5)8で表され、T8と呼ばれる一辺が0.3ナノメートルのシリカの立方体構造を中心に、各頂点に有機官能基を持つ物質の総称である。剛直な立方体核から放射線状に側鎖が配置されており、ネットワークポリマーやデンドリマーなど、多分岐型高分子材料構築のビルディングブロックとして有用である。また、官能基Rに修飾を加えることで多種多様な機能の付与が可能である。これらの修飾により、溶媒や他の媒質中において高い分散性を付与することが可能であることから、POSSを分子フィラーとした複合材料の作成が容易となる。以上の利点から、POSSは様々な機能性材料構築に応用が図られている。特に、これまでの研究では剛直性を利用して高分子の耐熱性向上や機械的特性付与に用いられてきた。また、極性基であるシラノール基を持たないため、低誘電材料や表面の疎水化などへの応用も進んでいる。本研究では、POSSを元素ブロックとして高分子材料に組み込むことで高機能材料の創出を目指した。具体的には、まずPOSSをフィラーとして用い、プラスチックの屈折率制御を行った。特に、POSSは樹脂の耐熱性向上に効果が高いことから、低屈折率化と樹脂の機械的特性を両立するための分子フィラーの設計に関する研究を進めた。様々な構造を有するPOSSフィラーによる汎用性樹脂の物性変化測定を行った。まず、アルキル基修飾POSSをフィラーとして種々のポリマー中に添加し、物性変化を調べた。その結果、オクタビニルPOSS添加により、汎用ポリマーの屈折率低下がみられた。一方、フェニルPOSSでは、機械的特性の向上がみられたが、低屈折率化の効果は低かった。これらの二つを混ぜることで両者の物性を両立できることが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始時においては基本的な分子の合成と材料化について基礎的技術は確立していたが、より複雑な物質の開発については知見が得られていなかった。置換基の導入や骨格の変換、異なる元素による置換等、化合物ライブラリーの拡張のための合成上の基盤技術の構築が急務であった。それらの状況の元、前半の期間において合成法の開拓を重点的に進めていったところ、多用な種類の分子やそれらの材料化までの手法論を構築することができ、大規模な化合物ライブラリーを作成することができた。これらの要素技術の確立に至ったことから、効率よく研究を進める土台を築くことができた。さらに、得られた材料の物性を調べることにより、当初の目的とする物性値と同程度の値を得ることができた。これらの状況から、期間の後半には様々な類縁体合成を達成したことと、さらに、これらを用いた材料の物性解析の結果を分子設計にフィードバックさせ、より高機能化を図るという研究サイクルを確立することができた。その結果、本研究で目的としている機能を超える物性をえることができた。また、測定条件を最適化することができ、化合物の合成から物性評価まで効率的に研究を進行させる状況を構築することができた。 さらに、本研究遂行によりさまざまな類縁体をえることができた。これらは研究計画で設定した用途における物性パラメーターの目標値を達成したことのみならず、異なる特性を有しており、そこからも新しい展開が期待される結果を得た。 以上、研究目標を達成したことのみならず、今後、本研究で得られた新しい原理を用いることでより高機能性材料を創出することが期待できる点、さらには、全く異なる分野へのアプローチを行い、それらの分野で既存の課題を克服することに貢献することが期待できる点で、現在までの進捗状況として当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高分子合成のために重合性官能基を有するアザフェナレン誘導体をモノマーとして合成し、ネットワーク化を図る。カルボキシル基含有アザフェナレンとアミノPOSSを用い、ネットワーク高分子を合成する。現在、ジブロモ体の合成までは確立している。高分子合成後の同定は、水系によるGPCによる高分子量体生成の確認、NMRによる架橋度の算出、動的光散乱による粒径分布の測定により行う。TGAにおいて化合物の熱安定性も調べる。十分に水溶性が確保できない場合、架橋度を調節し、水溶性の向上を図る。また、光吸収能の向上のために、フルオレンなどの芳香族ユニットとの複合化を図る。 水中の汚染物質の除去能について検討を行う。指標となる色素を共存させておき、光を照射する。時間経過に伴う溶液中の色素の残存量を紫外可視吸収スペクトルから定量することで、触媒能の評価を行う。次に、水の分解能について調べる。上記で得られた高分子を水に溶かし、光照射を行う。反応後の水の残量や、水素と酸素の発生量を測定することで光触媒能の評価を行う。色素自体のネットワーク内部への浸透の差がみかけの反応率に影響すると予想される。最初はPOSSに吸着しやすい芳香族炭化水素系の色素の挙動について調べる。 熱に弱い酵素の失活を誘導することを示し、温熱治療への応用の可能性を実証する。グルタチオン還元酵素(GRE)は細胞に対する有害物質を分解する機構に関わっている。GREは腫瘍細胞に多く発現しており、これらのGREを分解できれば腫瘍細胞の薬剤耐性を除去することで、わずかな量の抗がん剤でも薬効発現が可能となると考えられる。GRE溶液にマイクロ波照射を行い、修飾ナノ微粒子の有無による酵素活性の定量を行う。酵素の微粒子への吸着が問題となってくるが、カウンターアニオンの変更やアルブミンなどのタンパクによる前処理により酵素の非特異的吸着を防止する。
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