研究実績の概要 |
揮発性有機化合物(VOCs)や小分子化合物の高感度かつ高選択的な検出法の開発が広く求められている。中でも吸収特性や発光特性の変化により、ガス状物質を検出可能な材料の開発が盛んに行なわれている。例えば、担体上への有機色素の配列・共役高分子・Metal Organic Framework/Porous Coordination Polymers・多孔性有機結晶等を利用した有機化合物センサーが報告されている。共通の分子設計としては、(i)固相のホスト骨格と気相(ガス状)のゲスト分子との接触表面積を増やすこと、(ii)ホスト骨格とゲスト分子との適切な分子間相互作用の活用(水素結合、π-πスタッキング、電荷移動相互作用等)が挙げられる。 本研究では、ナフタレンジイミド誘導体(NDI)とトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFB)から構成されるルイスペア超分子複合体をホスト(1)とすることにより、芳香族炭化水素の蒸気に応答して光る蛍光センサーの開発を行った。具体的には1の粉末を芳香族炭化水素の蒸気に1日晒すことによって、ベンゼンでは青、トルエンでは水色、メタキシレンでは緑色、1,3,5-トリメチルベンゼンでは黄緑色に蛍光発光する材料の創製を達成した。発光スペクトルの極大波長(cm-1)と芳香族炭化水素のイオン化ポテンシャル(eV)との関係をプロットしたところ、直線関係が得られたことから、この発光はNDIと芳香族炭化水素との間で形成される電荷移動相互作用に由来するものだと考えられる。また発光強度を比較すると、トルエンでは76倍、ベンゼンでは46倍、mキシレンでは37倍に発光強度が増大した。一方で、一般的な有機溶媒であるヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンの蒸気を晒しても蛍光強度はほとんど増大しなかった。以上の結果は、今回調製した1の粉末が、芳香族炭化水素を選択的に応答し光るセンサーであることを意味している。
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