公募研究
本研究では、「我々はどこからくるのか?」という根本的な科学的問いに答えるべく、宇宙における元素合成の現場をはじめて観測的に捉える事を最終目的とし、重力波天体の候補である連星中性子星の合体現場で合成された核ガンマ線を捉え、r-process による重元素合成の有無を検証することが目的である。平成27年度は、研究実施計画にあるとおり、(1)「r-process新星とされるキロノバからのガンマ線放射の理論推定と観測実現性の検証」の課題に注力した。連携研究員である仏坂氏、和南城氏、田中氏、馬場氏らとの共同研究で、キロノバで生成される重元素量の推定と、そこから放射される不安定核からのガンマ線の時系列発展の理論推定を行ない、査読論文としてまとめた。結果、10キロ電子ボルトから1メガ電子ボルトの高エネルギー帯域のうち、300キロ電子ボルト以上の軟ガンマ線帯域だけが唯一、核ガンマ線放射を検出する可能性のある帯域であることが明確となった。またそのフラックスレベルは、3メガパーセクの近傍に出現した場合に、ASTRO-H「ひとみ」衛星の軟ガンマ線検出器で検出可能である事も明確となった。さらに、ASTRO-H「ひとみ」衛星の搭載機器の較正精度を向上すべく、NASA・JAXAの研究者らとの研究打合せを重ね、予定通り、解析ソフトウェアーの整備等も完了した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、研究計画通り、(1)のキロノバからのガンマ線放射の推定が完了し、(2)のASTRO-H「ひとみ」衛星のソフトウェアー・較正データベースの開発もほぼ完了した。さらに平成28年度の展開する予定であった(3)の将来ガンマ線検出器の概念設計のモンテカルロ数値計算もはじめているため、順調な進展であると判断できる。
平成27年度末に、ASTRO-H「ひとみ」衛星は無事にHIIロケットで打ち上げられたものの、3月末の時点で通信が途絶しており、今後の観測計画が立たない状況である。平成28年度には(2)で「ひとみ」衛星による萌芽的ガンマ線観測を試みる予定であったが、状況が不明であるため、「ひとみ」衛星の復旧にむけた努力を行うと共に、初期観測データを用いたガンマ線探査や、欧州の軟ガンマ線衛星の公開データを用いた探査に切り替える必要があろう。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 459 ページ: 35-43
10.1093/mnras/stw404