公募研究
z>6の初期宇宙で実際に観測されている10億太陽質量を上回るような超巨大ブラックホールについて、その種となり得る超大質量星の形成過程について研究した。特に、これまでの先行研究では人工的に仮定していた星形成ガス雲の周囲の環境効果を自己矛盾なく取り入れることに初めて成功した。このことは、宇宙論的な初期条件から始めて一貫した構造形成のシミュレーションを行うことに依って可能になったものである。その結果、これまで知られていなかった現象、すなわち、周囲の星形成銀河からの潮汐力によってガス雲の重力収縮が阻害される効果を初めて見出した。超大質量星形成のためには冷却剤となり得る水素分子が輻射場によって破壊されている必要があり、そのような強力な輻射場を作り出すためには必然的に大きな星形成銀河が付近に存在している必要があった。しかし、同時にこの銀河が潮汐場も作り出してしまい、実はガス雲の収縮、ひいては超大質量星形成の形成まで阻害してしまう場合が実は多いことが明らかになったのである。調査した数十例の星形成ガス雲のうち、ガス雲の収縮が見られたのは僅か2例のみであり、このときはガス雲を宿すハローが急なmerger過程を経て形成していることも分かった。これが、潮汐力の効果を乗り越えてガス雲収縮を助ける効果を果たしたためである。さらに、星形成ガス雲の外縁部はこの潮汐力によりunboundとなり、雲自身の質量は結局この効果によって制限されることも分かった。ガス雲の質量は最終的に形成される星の質量の上限質量を与えることになるため、種ブラックホールの上限にもなる。このように、環境効果は超大質量星形成途上の様々な局面で重要な役割を果すことが明らかにされた。
2: おおむね順調に進展している
超大質量星の形成過程をはじめて首尾一貫した宇宙論的シミュレーションで追跡し、ガス雲収縮のための新たな条件を見出すことができた。他の先行研究では超大質量星形成のための条件が満たされているような状況を人工的に用意して、その後何が起きるかを調べた仕事しかなかったため、我々の成果はこれらとは一線を画した独創的な研究である。さらに数十例のサンプルから実際にガス雲収縮が起きる例をわずかではあるが見つけることもできた。これによって、初めて現実的な初期条件から始めて超大質量星形成が起こり得る可能性を始めて明確に示した。このような興味深い成果を得ることが出来たことを持って、研究は順調に進捗したということができる。
ここまでの研究では、現実的な初期条件から超大質量星形成が可能となり得る条件を調べ、実際にこれを満たした2例からガス雲の重力崩壊が起きるための条件を新たに示した。すなわち、付近の大質量銀河の作る潮汐力を乗り越えてガス雲収縮が起きるためには、merger等によって十分速やかにガス雲成長が進む必要があったのである。ただし、この段階ではガス雲の中心部の密度が十分に上昇したことを示したのみであり、本当に超大質量の星が誕生するのか否かまで示すことはできていない。これを調べるには密度上昇が最終的に止まって原始星が誕生し、さらにその原始星の質量がガス降着によって増加する、いわゆる質量降着期の長期進化を追跡する必要がある。今後はこの時期の進化まで数値シミュレーションを継続し、最終的にどのような星が誕生するのか、さらにその結果として一体どのようなブラックホールが最後に残されるのかが次の研究の課題となる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 459 ページ: 1137-1145
10.1093/mnras/stw637
巻: 452 ページ: 755-764
10.1093/mnras/stv1346