公募研究
重力波の直接検出は、極限状態における重力理論の検証やブラックホールの形成過程を知る上で重要である。しかし、重力波検出のみでは重力波源を特定できず、物理パラメーターの不定性も大きい。このため、電磁波、特に可視光や赤外線等による追観測で重力波源を特定することが重要となる。本研究は、ニュージーランド・マウントジョン天文台の1.8m望遠鏡および61cm望遠鏡を使い、重力波が検出された事象の光学的な追観測を実施して、重力波を放出した天体を特定することを目指している。今年度は、LIGOが最終感度の1/3まで感度を上げ、9月から正式な観測を始めた。本研究では、この時期に合わせて追観測の準備を整え、観測に備えた。9月16日に、LIGOから重力波事象の候補を検出したとの情報が受け取り、61望遠鏡を使いLIGOのスカイマップの中から100Mpc以内の近傍銀河18個の追観測を実施した。この時点では、不確実性が高いと思われていたこの事象は、LIGOによるその後の解析で最初の重力波直接検出であることが明らかとなった。追観測の画像データから星のイメージを抽出し、既知の星と比較した結果、我々のデータからは候補天体を発見することができなかった。これは、LIGOのデータから得られた410Mpc離れた30太陽質量のブラックホール連星の合体という結果と矛盾しない。この事象(GW150914)の追観測については、J-GEMグループによる追観測の一環として論文を投稿中である。上記以外にも、大量のサーベイ観測を実施した。これらの中から、重力波源を発見すべく精力的に解析を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、重力波の直接検出自体がまだ先で、そのためのハード・ソフト・観測体制を整備して、試験観測を実施する予定だった。9月の時点で、一応の観測体制を整え重力波アラートに備えるところまで準備した。実際に起きたことは、まったく想定外であり、本物の重力波検出が起きてしまった。アラートの配信なども、通常の方法とは違っていて判断が難しかったが、追観測を行うことに成功した。本物の重力波検出事象で追観測に成功したのは、予想外の進展である。この時点で、まだ解析プログラムは未整備で、すぐに結果が出せる状態ではなかったが、その後LIGOの正式発表(2月)までの間、解析を実施してプログラムを整備した。その結果、重力波源を特定するには至らなかったが、結果をまとめて論文を投稿できたのは、まったく予想外の成果である。この間に整備したプログラム等は、今後起きる事象の解析に有効に活用され、観測後早い時点で結果を出せる様になることが期待される。発見された事象は、当初予想されていた中性子星連星の合体ではなく、ブラックホール連星の合体だった。重力波源までの距離も、約400Mpcと当初の予想(< 100Mpc)よりかなり遠かった。このため、観測戦略の再構築を迫られたが、このことが分かったこと自体が大きな進展と言える。総じて、重力波天文学の幕開けを迎え、予想外の事態に直面したが、それらを乗り越えて追観測を実施し、結果をまとめることができた。これにより、将来起きる事象の追観測に展望が開けたといえる。
今回の事象(GW150914)により、重力波源の多くは近傍(< 100Mpc)の中性子星連星の合体ではなく、遠方で起きるブラックホール連星の合体である可能性が高いことが判明した。従来は、中性子星連星の合体を想定して、近傍銀河を個別に観測する戦略を中心に実施する予定だった。しかし、100Mpc以上の距離の有効な銀河カタログは現時点では無いので、この戦略は変更を迫られる。当面考えられる方法は、アラートを受け取った後、ただちに広視野の1.8m望遠鏡によるサーベイ観測を実施することである。広域サーベイとなるので、膨大な星の中から重力波源を特定することになるので、解析はより困難となる。GW150914を含めたLIGO O1の期間の事象に対する、1.8m望遠鏡によるサーベイ観測も行っており、すでに大量のサーベイデータを保有している。現在、これらのデータの解析を進めている。これにより、膨大な星の中から変光天体や超新星、移動天体などを除いて重力波源を特定する手法を確立することができると考えている。J-GEMの中には、ガンマ線バーストの専門家のほかにも超新星や小惑星の専門家が入っており、こうした専門家の助言などを受けて、解析手法を確立する。また、今後大口径望遠鏡によるスペクトル解析を実施する必要性が高まることが予想される。このためには、リアルタイム解析によって、早い時期に重力波源の位置を特定する必要がある。このため、グリッド技術などを利用した解析の高速化を行う。今年(2016年)8月には、新しいLIGOの観測期間O2が始まる。それまでに、解析を含めた追観測の体制を整備して、重力波源の特定を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 11件、 査読あり 11件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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