研究領域 | 重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
15H00782
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 講師 (50531779)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙物理学 / 中性子星 / 数値相対論 / 重力波 |
研究実績の概要 |
本年度の研究課題では、まず、連星中性子星合体の数値相対論シミュレーションを行い、合体における質量放出過程の連星パラメータ依存性を明らかにした。本研究は、前年度に行った質量放出過程の状態方程式依存性の精査に続くものである。状態方程式については、最新の原子核実験、および近年観測された short GRB 130603Bに付随する電磁波対応候補天体の理論モデルと整合的な2モデルを採用し、連星パラメータについては、連星パルサーの観測に基づいて3つのモデルを設定した。 連星中性子星合体の瞬間からの質量放出には、(1)潮汐力によって変形・破壊され重力トルクによって主に赤道面方向に撒き散らされる成分と、(2)その後、衝撃波加熱によってより等方的に吹き飛ばされる成分があるが、連星の質量比が1からずれるにしたがって、(1)の成分が相対的に多くなることを定量的に明らかにした。以上の成果は論文にして投稿済みである。 さらに、シミュレーションの結果得られたグリッドデータをラグランジュ的な流体素片データにマッピングし、各流体素片の温度、密度、電子モル分率の時間発展を導出し、各流体素片ついて元素合成の計算を行った。本研究結果は現在論文にまとめている最中である。 続いて、ブラックホール‐中性子星連星合体の数値相対論シミュレーションを行い、合体における質量放出過程の状態方程式依存性を明らかにした。この場合には状態方程式に依らず潮汐成分が卓越する。さらに興味深い結果として、放出物質の電子モル分率が、状態方程式を記述する相互作用の対称エネルギーを反映することを明らかにした。この結果を用いれば、未解明の核物質状態方程式に制限を与える可能性がある。本研究結果は現在論文にまとめている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に記載した内容に加えて、連星中性子星合体後の長時間進化を追跡可能にする数値コードの開発に成功し、その研究に着手することができたため。 連星中性子星合体後にブラックホールへと崩壊せずに中性子星が形成される場合には、残された中性子星からのニュートリノ放射によって放出される成分の寄与が大きくなると期待される。これについて定量的に調べることは、重力波に付随する電磁波対応天体の、実際上の観測計画において極めて重要である。そのためには長時間の進化を追跡する必要があるが、空間3次元のシミュレーションの実行は計算機資源的に困難であるため、空間2次元のシミュレーションにスイッチする必要がある。本年度の研究において、そのために必要なコードを完成させた。 また、現実の中性子星は強い磁場を有しているため、長時間の進化過程では、磁場によって駆動される角運動量輸送や質量放出過程も考慮に入れなければならない。これらの過程の定量的に正しい記述には空間が3次元であることが本質的であるが、一方で、空間を2次元に落としたシミュレーションが長時間進化の追跡には必要である。そこで、磁場による上述の過程を粘性による効果として組み込んだ数値相対論コードの開発に着手し、世界に先駆けてそれを完成させた。テスト計算を完了し、今後本格的なシミュレーションを行う予定である。 これらに加えて、従来採用していた多層格子法を適合型多層格子法に拡張し、少ない計算量でシミュレーションを遂行可能な数値コードも開発した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究に引き続き、ブラックホール‐中性子星連星合体の数値相対論シミュレーションを行い、合体時における質量放出過程の連星パラメータ依存性を明らかにする。本年度に開発した、多層格子法を適合型多層格子法に拡張した数値コードを用いることで、中規模計算機でもシミュレーションが実行可能となることが期待されるので、計算機資源利用の最適化を行い、効率的に研究を進める。 数値相対論シミュレーションで得られた結果を用いてr過程元素合成計算を行う段階では、グリッドーデータからラグランジュデータの作成の部分が完全には自動化されていないので、そこが研究の律速段階の一つとなっている。そこで、研究協力者らとこの部分の自動化を進めることで、より効率的に研究を遂行する体制を整える。 得られた結果に基づき、重力波に付随するr過程元素の崩壊に伴う可視光放射の光度曲線・スペクトルの計算を行う。質量放出過程の違いに着目した詳細な光度曲線計算を行い、観測に先立つ予言を与えることを目指す。 さらに、上記に挙げた当初の研究計画の枠組みを超えて、本年度開発に成功した空間2次元の一般相対論的ニュートリノ輻射粘性流体シミュレーションコードを用いて、連星中性子星合体後にブラックホールへと崩壊せずに中性子星が形成される場合における系の長時間進化と、その場合の質量放出過程を明らかにする。
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