研究実績の概要 |
本研究では生理的条件下で標的核酸に対し貫通構造を構築し、さらにその分子の動きを制御することで、核酸上を一次元的に動く分子マシンの開発を目指している。以前我々は、一対の反応性オリゴDNA(ODN)を標的核酸に加えて二本鎖を形成させることで、二種類の化学反応を誘起させ、貫通構造を構築することに成功している。しかし、この形成収率はDNAに対して80%、RNAに対して70%で頭打ちになっていた。そこで本年度は最初に標的核酸に対する貫通構造構築の最適条件を探索した。分子の設計は以下三点に着目し行った。 ①反応性基を伸長しているヌクレオチド間の塩基数 (m)をm = 8, 10, 11, 13とした。 ②リンカーを挿入する部位を糖の2’位またはピリミジン塩基の5位とした。 ③アジド基を修飾しているPEGリンカーの長さ (n)をn = 5, 7, 9, 11とした。 また副反応を防ぐために、ホスホロチオエート基はジスルフィド基ダイマーとすることで保護し、系中のグルタチオンにより活性化することを計画した。合成した種々の反応性ODNは組み合わせを変え、貫通構造形成反応をゲルシフトアッセイにて系統的に解析した。その結果、いくつかの組み合わせで既存のものより、高効率、高収率で反応が進行し、RNAを標的にしたときに最大、5分で85%の反応を見出すことに成功した。 次にあらかじめ環状化したODNを用いて、スリッピングによる貫通構造形成法を調査した。その結果、環状化したODN構造のテイル配列部があるときのみ、スリッピングが効率的に起きることを見出した。また、温度をコントロールすることで、可逆的な貫通構造形成にも成功した。特に、70℃以上の高温下で環状化したODNが軸となる核酸から解離したことから、高温条件下で環状核酸を一次元的に動かすことに成功した。
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