本研究は、生体内と近い環境で進行する酸化還元反応である酵素-基質反応のリズム現象に着目し、このリズム反応を、生体組織に見立てた分画された脂質カプセル(ジャイアントベシクル)の塊の中に実装することで、各ジャイアントベシクル中で進行するリズム現象が隔壁を通じて結合し、ジャイアントベシクル集団塊全体としてどのようにふるまうかを5次元(3D+時間+振動分子濃度)で計測してその機構を解明する。 本研究課題は、ジャイアントベシクルを駆動体とした「アメーバ班分子ロボット」とゲルを駆動体とした「スライム型分子ロボット」の中間となる新しい分子ロボットを提供する。これには、分画化したジャイアントベシクルが刺激に応答する機能性を有することが不可欠であり、その機能がリズム反応という時空間的な情報処理に応答できれば、ジャイアントベシクル集団塊という高次の階層の分子ロボットの創成につながる。 前年度に確立したカタラーゼ内包ジャイアントベシクル分散液の作製法を、次の2点で改良を行ってジャイアントベシクル凝集塊の作製に至った。脂質分子については、リン脂質からポリグリセリルポリリシノレート(PGPR)とすることで、油相中の水滴どうしが接合する膜の安定化をはかった。また、油相を流動パラフィンからスクアレンとすることで、PGPRの油相への溶解パラメータを変え、水滴からジャイアントベシクルへ移行する過程を進行しやすくした。これにより、粒径が100-1000umで、3-200umほどの分画をもち、すべてが二重膜でおおわれたジャイアントベシクル凝集塊を作製した。このジャイアントベシクル分散液の濃度を37度に昇温し、カタラーゼ-過酸化水素の反応を誘導すると、ジャイアントベシクル凝集塊の一部の分画が伸縮することが見出された。このとき、溶存酸素計測を行い、分散液中の酸素濃度がパルス状に変化することが明らかとなった。
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