研究領域 | 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 |
研究課題/領域番号 |
15H00806
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
下川 直史 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (20700181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リン脂質 / リポソーム / ベシクル / 脂質二重膜 / 相分離 / 膜変形 / 静電相互作用 / 粗視化分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
リン脂質から成るリポソームは分子ロボットにおける器と成り得ることから、注目を集めている。リポソームの制御、機能付与など様々な研究が行われているが、その多くが電気的に中性のリン脂質を用いている。一方、実際の細胞膜には負に帯電したリン脂質が含まれており、静電相互作用を制御することで様々な機能を発現している。しかし、静電相互作用はその長距離性や多体相互作用のため、制御が困難である。そこで、静電相互作用の制御を目指し、実験・理論・数値シミュレーションを併用し荷電脂質を含むリポソームでの構造形成について取り組んでいる。 当該年度は(1)荷電脂質膜での相分離と膜孔形成、(2)荷電脂質膜の相分離理論、(3)荷電脂質膜の相分離と膜変形挙動の数値シミュレーションについて行った。 (1)では不飽和荷電脂質と飽和中性脂質の系において自発的に膜孔が形成されることを実験的に示した。またこれらの結果を粗視化分子動力学シミュレーションにより再現することにも成功した。シミュレーションより荷電脂質が膜孔の縁を安定化していることが示された。この研究成果は学術論文として発表した。 (2)では荷電脂質と中性脂質の二成分系の相分離を現象論的なモデルにより記述した。脂質の相転移を記述するために膜厚、相分離を記述するために脂質の面積分率の2つの秩序変数を用いた。特に分子体積が保存する仮定を置くことで静電相互作用と脂質の転移が結合する効果を取り入れた。塩濃度や脂質間相互作用を変化させ相挙動を記述することに成功した。この結果は論文としてまとめ、現在投稿中である。 (3)では荷電脂質と中性脂質二成分系の相分離と自発的な変形を塩濃度や脂質間相互作用を変化させ系統的に調べた。特に相分離ドメイン形成の時間発展についてや静電相互作用による膜変形についての予測を行った。これらの結果は論文として発表する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シミュレーションに関しては当初の予定通りに進行している。それに加え、理論面でも相分離挙動を記述するモデルを提案するなど計画以上に研究が進展している。理論においては上述したモデルの他に荷電脂質膜の理論に関する共同研究も行っている。また、翌年度に行うシミュレーションの予備計算も終了している。さらに、シミュレーションに関する共同研究も2つ新たに行うことになっており、計画以上に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究結果を踏まえ、今後は以下の研究を計画している。 (1)荷電脂質膜の相分離と膜変形挙動の数値シミュレーションについて論文の作成を行う。また、必要であれば追加の計算を行っていく予定である。 (2)荷電脂質膜へのコロイド粒子の添加を数値シミュレーションにより行う。中性コロイドの場合は親水相互作用を強くした親水コロイド、疎水性相互作用を強くした疎水コロイドを想定し、エンドサイティックな挙動や膜内への進入などが見られるかを明らかにする。荷電コロイドでも同様の点に注目するが、荷電コロイドが膜面に相分離を誘起するかを特に注目して計算を行っていく。 (3)(2)においてコロイド粒子を数を増やし計算を行う。その際にはコロイド-コロイド間の相互作用を制御することで、1つのコロイド粒子を添加するときには見られない挙動を明らかにしていく。 以上より、コロイド粒子と荷電脂質膜との相互作用に重点を置き、相分離誘起・膜変形を明らかにすることで、リポソームの構造制御に役立てていくことを目指す。
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