リン脂質から成る脂質二重膜が丸く閉じた構造はリポソームと呼ばれ細胞のモデル系として扱われている。特に、リポソームは分子ロボットの器と成り得ることから、リポソームにおける機能付与など様々研究がなされている。本研究課題では、リン脂質の親水基に電荷を有した荷電脂質を含むリポソームが普遍的に有している物理化学的性質を明らかにし、分子ロボットへの応用展開の基盤とすべく、粗視化分子動力学シミュレーションを中心に据え、実験・理論を併用し研究を進めてきた。 当該年度は1.荷電脂質と中性脂質の二成分系における相分離と自発的膜変形の粗視化シミュレーション、2.荷電脂質と中性脂質の二成分系へ荷電コロイドを添加した際の相分離と自発的膜変形の粗視化シミュレーションを行った。 1では、中性脂質のみから成る系での相分離と荷電脂質を含む系での相分離を比較した。その結果、荷電脂質を含む系では相分離の開始に遅延が見られること、スピノーダル分解型から核形成型へ変化することなどが見られた。また、ドメインの大きさが時間の0.4乗に比例する新しい成長則を見出した。膜の自発的変形においては、塩濃度、脂質間相互作用を変化させることで、球状・ディスク状・ひも状・バイセルと様々な形態へ変化することが明らかになった。これらの結果は論文としまとめ発表した。 2では中性コロイド・荷電コロイドをリポソームへ添加した際のコロイドの取り込み挙動・リポソームの変形挙動を観察した。その結果、パラメータに応じて膜面から離れていく場合、吸着する場合、膜内に留まる場合、リポソーム内部へ取り込まれる場合などさまざまなダイナミクスが明らかになった。また、荷電コロイドの場合、吸着により膜面に相分離構造を形成することがわかった。現在、論文としてまとめる準備を進めている。
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