本研究では、分子ロボットを構成する種々の分子デバイス(ペプチド・ゲル・リポソーム等)が、情報伝達の役割を担うと期待されるDNAを光照射により自在に捕捉・放出できるよう、新たなDNA光架橋素子を開発することを目的としている。これまでにDNA結合性ペプチドに3-シアノビニルカルバゾールを導入することでペプチドにDNA光捕捉・放出機能を付与できることを見出してきたが、分子サイズが比較的大きいことから、その応用範囲はペプチドを骨格とする分子デバイスに限られた。そこで本研究では、より分子サイズが小さく、他の分子デバイスへ容易に適用できる新たなDNA光架橋素子の開発を目指し、平成27年度は、DNA結合性の低分子化合物に3-シアノビニルカルバゾールを修飾した、DNA光架橋素子の合成を試み、逆相HPLCによる精製後、1H NMR、13C NMR、MALDI-TOF-MSスペクトルにより同定し、目的のDNA光架橋素子の合成に成功した。平成28年度は、合成したDNA光架橋素子と、種々の構造および配列を持つDNAとの光反応性および、相互作用の詳細を調べた。結果、合成したDNA光架橋素子は、特徴的な構造を持つDNAとのみ光架橋可能であることが明らかとなり、これまでにないユニークな特徴を持つDNA光架橋素子の開発に成功した。このDNA光架橋素子はさらなる化学修飾の足がかりとなる官能基を含んでいることから、ペプチドをはじめ、種々のゲルやリポソーム等に容易に導入することが可能で、種々の分子デバイスにDNA光補足・放出能力を付与できるものと期待できる。
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