公募研究
申請者がこれまで薬物送達キャリアとして独自に開発してきた蛋白質・脂質複合ナノ材料(高比重リポ蛋白質の変異体)を用いて、ロッド状金ナノ粒子(金ナノロッド, AuNR)の表面を修飾する方法を新たに開発した。得られた表面修飾金ナノロッド(pm-AuNR)は、そのカチオン性により生細胞膜親和性および膜滞留性が極めて高い一方、細胞毒性は検出されなかった。一般的に、カチオン性表面を持つナノ材料は膜破壊活性を示しやすいことを考慮すれば、この結果は、高比重リポ蛋白質に特異的な機能に由来すると予想された。実際、その後光照射してpm-AuNRを細胞膜上で発熱させた時の膜の物質透過性上昇(=膜破壊)は、一般的なカチオン化AuNRに比べて生じにくかったことも、この予想を指示する。そこでpm-AuNRの特異な膜相互作用のメカニズムを解明するため、北陸先端大濱田勉博士と共同で、細胞サイズリポソーム(GUV)を用いる研究を新たにスタートさせた。液体秩序(Lo)相と液体無秩序(Ld)相からなる混合相GUVにpm-AuNRを作用させると、驚くべきことに、Lo相が消失し、代わりに固体秩序(So)相が出現することがわかった。このLo→So相転移のダイナミクスを調べるため、実験系を独自に構築した。具体的には、スライドガラス上に置いたGUV液滴とpm-AuNR液滴をカバーガラスで挟むことで接触を開始させ、その接触境界領域にあるGUVの相変化を顕微鏡観察した。この結果、pm-AuNRがGUVに接触するとLo相が不安定化し、ミクロドメインが放出される様子がまず観察された。その後放出されたミクロドメインは、離合集散を繰り返し、次第に線状のSo相を形成することが視覚化された。このようなLo→So相転移のダイナミクス観察自体が初めての例であるとともに、pm-AuNRの特異な膜相互作用のメカニズムの一端が明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、膜に接着させた後の光照射で膜構造の変化を誘導することを目指す、ということであったが、申請者独自に開発した表面修飾金ナノ粒子は、膜接着するだけで膜の相転移を引き起こすという予期せぬ現象を誘導することがわかった。領域内共同のお陰で、この現象のメカニズムを解明するための新たな実験系を迅速に構築することができた。
昨年度構築した実験系を利用してさらに解析を進め、表面修飾金ナノ粒子の接着によるリポソーム膜相転移のメカニズムを解明する。そしてその後、光照射実験を行い、この相転移への影響を調べる。そしてさらにリポソーム膜間で融合させることを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件)
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