公募研究
r(GGAGGAGGAGG)配列をもつRNA (R11)は、細胞内環境に相当するカリウムイオン(K+)濃度下でコンパクトな四重鎖構造を形成する。一方、K+が無い場合は特定の構造を形成しない。この特徴に基づき、我々はハンマーヘッド型リボザイムの配列の一部をR11で置換した四重鎖ハンマーヘッド型リボザイム(QHR)を設計した。このリボザイムの活性部位はR11によって2つのサブユニットに分断されているため、K+非存在下ではサブユニット間が離れているために活性を発揮できず、一方K+存在下ではR11の四重鎖構造の形成に伴い、サブユニット同士が接近して活性部位の構造が再形成されて、活性が復活することを期待した。実際にK+存在下と非存在下における基質の切断量を比較すると、K+存在下は非存在下と比べて4倍程RNAの切断活性が向上した。しかしながらQHRはK+非存在下においても残存活性を示し、その抑制が課題であった。当該年度では、K+非存在下におけるQHRの意図しない活性を抑制する方法論を開発した。QHRに対する相補鎖RNA (CS)および、自身も分子内四重鎖を形成することが可能な相補鎖DNA (QCS)を導入することで、K+非存在下における意図しない酵素活性を抑制させ、酵素活性がオフからオンにスイッチする能力を向上させることに成功した。細胞外におけるK+濃度は約5 mMであるのに対し、細胞内では約100 mMである。K+を感知して自らの活性を制御できる機能性核酸は、細胞の内と外で活性を切り替え可能な分子ツールと成り得、医薬品やドラッグデリバリーシステムなどへの応用が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画調書の予定通り、QHRの活性を精密に制御する方法論の開発に成功した。研究成果は2報の論文として発表した (Y. Yamaoki, et al., Chem. Commun., 51, 5898-5901 (2015); Y. Yamaoki, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 468, 27-31 (2015))。また、ヒト免疫不全ウイルスの転写促進因子であるTatを捕捉するアプタマーに四重鎖配列R11を導入した四重鎖Tat捕捉アプタマー (QTAp)についても研究を進行させており、K+存在下でのみQTApがTatを捕捉していることを示すデータを取得しつつある。また細胞内でQHRおよびQTApの活性を検証するために、細胞への導入方法の条件検討も行った。
平成27年度に引き続き、QTApの創製を目指す。蛍光標識したTatあるいはQTApの蛍光の観察によって、アプタマー活性がK+濃度によってスイッチされることを既に見出している。このスイッチングが、我々のデザイン通りの構造変化によって引き起こされているのかどうかを、NMRスペクトルによる構造研究によって明らかにする。また生細胞内でのQHR及びQTApの活性を検証する方法を確立する。平成27年度では、細胞への試料の導入法としてストレプトリジンOの孔形成を利用する方法を検討し、条件の最適化を行ってきた。今年度はこの手法に加えて、膜透過性ペプチドの配列を有するペプチド核酸とQHRまたはQTApを組み合わせる手法を検討する。高効率にQHRあるいはQTApを細胞へ導入する手法を確立した後、in cell NMR法によって細胞内での構造を解析し、意図した構造によって活性を発揮しているのかどうかを調べる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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