我々はr(GGAGGAGGAGG)配列のRNA、R11がカリウムイオン(K+)の無い水溶液中では伸びた立体構造をとること、一方で細胞内環境に相当するK+濃度下においては、K+を中心に配位したコンパクトな四重鎖構造を形成することを見出している。我々はR11のこの特徴に着目し、ハンマーヘッド型リボザイムを2つのサブユニットに分割して、R11の両端にそれぞれを連結させた四重鎖ハンマーヘッド型リボザイム (QHR)を設計した。QHRはK+存在下で活性が高く、K+非存在下で活性が低い。これはK+非存在下ではR11部分が伸びた構造となるためにサブユニット間が離ればなれになって活性を十分に発揮できず、一方K+存在下ではR11の四重鎖構造の形成に伴い、サブユニット同士が接近して活性部位の構造が再形成されることで、活性が復活したのだと考えられる。 平成28年度はK+による活性のスイッチング機構を、HIVの転写促進因子Tatタンパク質と高い親和性で結合するTatアプタマー分子に適用させることを試みた。我々は過去にTatアプタマーの立体構造とTatとの相互作用部位を明らかにしており、この情報を基にTatアプタマーを2つのサブユニットに分割し、R11の両端にそれぞれのサブユニットを連結させた、四重鎖Tat捕捉アプタマー(QTAp)を設計した。蛍光標識したTat由来ペプチドを用いた実験により、このQTApは100 mM ナトリウムイオン 条件下ではTat捕捉活性を発揮せず、100 mM K+条件下でTatを捕捉することを見出した。 細胞の内側と外側は大きく異なる環境であり、細胞外におけるカリウムイオン(K+)濃度は約5 mMであるのに対し、細胞内では約100 mMである。我々の創製したQHRおよびQTApはK+を感知して、その機能を細胞の内外で自律的にスイッチすることが期待される。これを検証すべく、生細胞内に導入した核酸のNMRスペクトルを検出する方法論の開発を進めた。その結果、ヒト生細胞内の核酸のNMR信号を捉えることに初めて成功した。
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