研究領域 | 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 |
研究課題/領域番号 |
15H00820
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 正宏 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50447140)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モジュラーロボット / 非線形振動子 / 細胞性粘菌 / 自律分散システム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,生物の形と機能の間にある普遍的な数理構造をロボット工学の観点からシミュレーションと実機実験によって明らかにすることである.生物は,身体部位間の相対的位置関係を動的に変化させることで,環境適応性といったさまざまな機能を生み出している.本研究では,そのからくり(基本論理)を理解するためのモデル生物としてアメーバ様生物に着目する.すでに申請者は,単純な運動機能を有する非線型振動子をネットワーク状に繋げて,真正粘菌変形体と振る舞いが定性的に一致するアメーバ様ロボットSlimebotを世界に先駆けて独自に開発した.本研究では,このようなロボットをプラットフォームとして,生物の形と機能を結びつける数理構造を構成論的に解明する. 具体的には,身体の構成要素が不均質であるシステムの複雑系ネットワーク解析,ならびに超多重のフィードバックループから発現する構造適応に関する議論を通して,形態に依存して機能分化するシステムの数理構造を解明する. 本年度,筆者らは,自然界の柔軟かつ自律分散的なシステムとして,細胞性粘菌の一細胞に着目した.細胞膜の伸縮にかかわる膜内化学反応モデルを自律分散的に実装した.伸縮する細胞膜と細胞内を移動する細胞質の物理的な相互作用をモデル化し,モジュラーロボットに細胞性粘菌の変形メカニズムを実装した.本年度は,細胞性粘菌と定性的に一致するPIP3の発火の確認,細胞膜と細胞質の相互作用の差異によりロコモーション様式が変わることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,細胞性粘菌型のモジュラーロボットを開発した.このロボットは,細胞膜モジュール,細胞質モジュールといった不均質なモジュール群から構成される.本年度の研究においては,この構造に起因する実験結果が得られている.そのため,当初,目的としていた,不均質性に関する複雑ネットワークの解析に関して,おおむね順調に進展していると判断した.さらに,本研究は,目に見える成果のみならず,新たな共同研究にも発展しており,今後の研究の加速や,顕著な成果が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,超多重フィードバックループから発現する構造適応の解明に取り組む.生物が具備するような適応的な知の工学的実現に関しては,主として制御系のパラメータの能動的改変に基づくアプローチが採られてきた(便宜上,このような適応様式をパラメトリックな適応と呼ぶ).一方,生物には,身体の物理的特性を改変させることによる適応様式も存在している(以下,構造適応と呼ぶ).真に高い適応能力を有するロボットを構築するためには,生物と同様に,ロボットにおいてもこれら二つの適応様式をともに具備することが必要不可欠となるのは論を俟たない.しかしながら,パラメトリックな適応に比べて,構造適応(特に,「いつも右の歯で食べ物を噛んでいると右あごの骨が徐々に発達する」といった個体発生的時間スケールの構造適応)をロボットに実装する試みは依然として乏しいのが現状である.そこで,機械構造を改変可能なモジュラーロボットを事例として採用することで,形と機能のつながりの議論を時空間的に拡張する.具体的には,構造適応を「多数の異質なモジュール群の空間的配置パターンが,モジュール間の協働的な相互作用を通して周囲の力学的状況に適応するように時間発展していく」という問題に帰着させる.各モジュールが周囲の力学的状況を知覚して,自発的にモジュール間接着特性を変化させることによる,時空間的に構造自体が適応する機能発現様式を考察する.これは見方を変えれば,きわめて局所的かつシンプルなフィードバックループが系内部で同時並列的かつ超多重的に機能しているシステムと捉えることもでき,生物制御の論理的深化にも寄与することが期待される.
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