本研究の目的は,生物の形と機能の間にある普遍的な数理構造をロボット工学の観点からシミュレーションと実機実験によって明らかにすることである.生物は,身体部位間の相対的位置関係を動的に変化させることで,環境適応性といったさまざまな機能を生み出している.本研究では,そのからくり(基本論理)を理解するためのモデル生物としてアメーバ様生物に着目する.本研究では,このようなロボットをプラットフォームとして,生物の形と機能を結びつける数理構造を構成論的に解明する. 昨年度・本年度は,筆者らは,自然界の柔軟かつ自律分散的なシステムとして,細胞性粘菌の一細胞に着目した.細胞膜の伸縮にかかわる膜内化学反応モデルを自律分散的に実装した.伸縮する細胞膜と細胞内を移動する細胞質の物理的な相互作用をモデル化し,モジュラーロボットに細胞性粘菌の変形メカニズムを実装した. 本年度は,さらに,モジュラーロボットの適応的形態変形のためには,常に形を作り続けながらも,部分的には壊れる部分も存在するといった,生成と崩壊が常に動的に生じ続けるといった仕組みが重要であると考え,そのモデルの構築に取り組み数値シミュレーションによる研究を遂行した.ここでは,自発的なモジュラーロボットの形態形成のために,仮想的な引力ポテンシャルによる形態形成アルゴリズムを設定した.これにより,ロボットの群れが結晶構造に近い群形態を形成した.このような方法の場合,引力ポテンシャルの安定性から,一度形成した群形態を異なる群形態に変形させることは難しい.そこで,安定状態を壊しやすくするために,異なる仮想的なポテンシャルを有するロボットを少数群れに混ぜた.これにより,システム全体として,群形態が安定しつつも適応的に別形態に変形することが可能となった.
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