研究領域 | 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成 |
研究課題/領域番号 |
15H00824
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
相樂 隆正 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20192594)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子集合組織体 / 超薄膜 / 電位駆動ダイナミクス / 高分子構造・物性 / 金属ナノ粒子 / ヒドロゲル / 接触角 / 蛍光顕微測定 |
研究実績の概要 |
電気化学的に駆動できる動的組織体を創製することを目指す研究を推進した。また、油滴および分子膜の電極上での可逆的な動きを制御するための動的挙動の機序解明を進めた。 1. 様々な体積のヘキサデカン(HD)滴をAu(111)及びAu(110)電極上に載せ、電極電位による接触角等の動的制御機序を検討した。どのような体積でも、HD滴が電極表面全面をwettingし連続液膜として覆う電位領域が存在しないことがわかった。また、種々の蛍光プローブを用いた蛍光顕微測定により、蛍光シグナル強度を縦軸としたプロファイルを得ることができた。更に、HDだけでなくアルキル長鎖をもつ有機液体やニトロベンゼンが、水素ナノバブルが生じる電位領域で超撥油性を示すことを見出した。 2. ビオロゲンの電極表面上での二次元相転移を拡張し、ヒドロゲル内での三次元相変化を電極電位で制御するため、ベンジル基をもつビオロゲンをポリ-L-リジン(p-L-Lys)にアミド結合でペンダントした。この高分子は水溶性であるが、還元すると、ペンダント化する前と比較して極めて高い還元体(ラジカルカチオン)のダイマー化率を示した。さらにグルタルアルデヒドより架橋してヒドロゲルを合成することに成功し、その高い電気化学活性を実験的に確認した。 3. 表面修飾により正電荷を持たせた金ナノ粒子への電極からの電子注入と粒子間電子ホッピングとにより、粒子を静電反発を緩和して凝集させることを狙いとし、まず、粒子の合成を行った。4-ピリジニウム型の正電荷をもつ4-nmの粒子をin situチオール化法で得ることに成功し、予測値に近いゼータ電位を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
狙いとする「電位制御で伸縮する材料の創製」に向けて、大きな支障なく研究が進展している。ただし、電子ホッピングと静電反発のOn-Offでの動きの発現を目指した金ナノ粒子の合成と、そのポリマー鎖への組み込みの検討が、当初のロードマップよりやや遅れているが、既にカチオンサイトを制御してナノ粒子表面に修飾する手法に目途が立ったため、今後、スピードアップした検討が進められるはずである。 研究の過程で、油滴として用いていたヘキサデカン(HD)の購入したロットの一つが蛍光発光性の不純物を含んでいたことがあった。当初、後から溶解させた色素からの発光と区別できなかった上、不純物分子を特定できなかった。しかしながら、滴全体からの蛍光データが功を奏し、逆に界面活性剤共存下での挙動の理解が進んだ。同時に、この経験は、蛍光顕微測定高度化のための示唆を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 電位駆動できる分子ロボットの姿として最も単純なのは油滴ロボットであり、その電位駆動をさらに詳細に理解する。例えば、油滴の形の変化を定量的に蛍光顕微動画から導き出す。また、共存アニオンの効果や界面活性剤分子共存による制御機構をモデル化する。以上の検討の結果は、リポソームの電位駆動に発展的に直結できる。そのため、共存イオンや界面活性剤を用いた増幅された速い動きの制御を達成する。 2. ビオロゲンの相転移的挙動で伸縮するゲルの創製において、様々なヒドロゲル構造を合成して酸化還元を最適化するとともに、還元すると同時に脱水する機構を確実に組み込み、単なる膨張収縮だけでなく、明らかな異方性をもつ動きを実現させる。 3. 電荷をもつ金ナノ粒子をフィブリルに繋ぎ、繰り返し静電的な制御で粒子間相互間隔を変化させることができるシステムを構築する。 4. 目標とする分子ロボットの柄には、ビオロゲンの相転移に基づく伸縮機構と、金ナノ粒子による伸縮機構とが同時に組み込まれ、互いに他の過程を促進する機序を組み込まねばならない。そのための相乗発現についてはいくつかの戦略を用意しており、その実際の取り組みに早期に取り掛かる。
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備考 |
研究室HPに、随時記載する。
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