公募研究
本研究の目的は、質量が測定されていない74Niから78NiまでのNi同位体の質量を測定し、中性子星の外殻構造を明らかにすることである。質量測定は、最近、理研RIビームファクトリーに完成した稀少RIリングでの飛行時間測定で行う。飛行時間測定では、薄く、高時間分解能(<100 ps)かつ高検出効率の飛行時間検出器が必要である。我々はそのような検出器として磁場Bと電場Eを組み合わせ、RIビーム通過の際に炭素薄膜から発生する二次電子をマイクロチャンネルプレート(MCP)に導き時間信号を得る飛行時間検出器(BE-MCP)の開発進めている。これまで、BE-MCPの時間分解能の限界は、磁場と電場の非一様性によるとされていた。しかしながら、我々は、原理的には、BE-MCPの時間分解能は、電場の大きさのみで決まることを見いだした。我々は、既存の検出器の電場を上回る~10 kV/cmの電場を持つBE-MCPを開発し、高時間分解能を目指している。平成27年度は、実証機の製作とα線及び重イオンビーム使った照射実験を行った。製作した実証機での印加電場は~6.5 kV/cmである。実証機製作後、241Am-α線源、および放医研HIMACの重イオンビーム(78Krビームなど)を使用して、この実証機の時間分解能および検出効率等の測定を行った。重イオンビームの実験で得られた時間分解能は、sigma=61psであり、検出効率は、約94%であった。時間分解能としては目標値をクリアーすることができ、既存の検出器の検出効率(~70%)より高い検出効率を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、飛行時間検出器の開発がメインであるが、目標とする時間分解能(<100 ps)の検出器の開発に成功している。検出効率も90%以上あり、既存の検出器の検出効率(~70%)より高い。さらに、稀少RIリングでは、平成27年度に2回のコミッショニング実験を行い、個別入射及び高い等時性磁場(~1 ppm)など不安定核の質量測定に必要な基本仕様を満たしていることを確認した。平成27年度で稀少RIリングでの質量測定の準備がおおよそ整ったと考えられる。
平成27年度に製作した実証機では、炭素薄膜および二次電子を受けるMCPの大きさは、直径約15mmであり、これは、質量測定で想定される二次ビームサイズの約半分である。今後は直径約30~40mmの実機仕様の検出器の製作が必要である。電場と磁場の一様性に考慮して製作を行う予定である。大型にした検出器の時間分解能の位置依存性はα線及び重イオンビームの照射実験でチェックを行う。時間分解能は目標を達成しているが、検出効率は100%ではなく、改善の余地がある。実証機では、炭素薄膜の片面から放出される二次電子のみを測定していた。予備的な測定では、薄膜の表あるいは裏のいずれの場合でも、時間分解能と検出効率は、同程度であった。よって、表裏、両方から二次電子を検出することにより100%近い検出効率を得ることができる。この改良は進行中であり、改良した実証機により、平成28年6月には重イオンビームで検出効率の測定実験を行う予定である。質量測定の観点では、平成28年5月にコミッショニング実験を行い、稀少RIリングで質量既知核の質量測定を行う予定である。この測定により、十分な精度で質量測定ができることが確認できれば、飛行時間検出器を設置し、平成28年秋には、未知核の質量測定を行う予定である。
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