研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
15H00834
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大田 晋輔 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60548840)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 核物質状態方程式 / 重陽子非弾性散乱 / アクティブ標的 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中性子核物質の非圧縮率の精度を格段に向上させることである。そのために世界に先駆けて錫132不安定核における巨大単極共鳴のエネルギー決定を行なうことを目標としている。 アクティブ標的を用いて原子核反応後の反跳軽粒子を測定することにより不安定核における単極共鳴の測定を実現するが、その読み出しパッドの形状がシステムの計測効率を決定するため、最適化を行なった。その際に重要となったのが、錫132不安定核ビームがアクティブ標的中に生成する高速電子線(デルタ線)と反跳粒子の弁別である。飛跡分解能を向上するためには一般に読み出しパッドは十分分割される必要がある。分割すればいちパッドあたりの反跳粒子のエネルギー損失は小さくなる。一方で電子線は離散的に大きなエネルギー損失をするため、細かく分割しすぎると反跳粒子のエネルギー損失より大きくなることもある。これらを考慮して最適なパッドのサイズを決定し読み出しパッドを新規製作した。 デルタ線に関連して、アクティブ標的システムを構成する検出器であるシリコン検出器の改良も行なった。平成27年度に行なった検出器テストにおいてシリコン検出器もまた大量のデルタ線によって信号雑音比が非常に悪くなることが分かったためである。共同研究者の協力により細かく分割された電極を持つシリコン検出器に置きかえることで信号雑音比の改善を行なった。 また大強度ビーム識別を行なう新手法の確証実験を錫近傍不安定核ビームを用いて行なった。これにより従来の10倍以上の強度でも粒子識別できる手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画はアクティブ標的における読み出しパッドの最適化を行なったのち、理化学研究所加速器施設RIBFにおいて錫132における巨大単極共鳴の測定実験を遂行することであった。 読み出しパッドは当初計画どおりシミュレーションやこれまでのテスト実験におけるデータを用いて設計・製作を行なった。また大強度ビームの粒子識別手法について実際のビームを用いたテスト実験を行なって、新手法の確立を行なった。一方で巨大単極共鳴の測定実験については年度内に遂行はできなかったものの、平成28年4月の時点で遂行している状況であるためおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は錫132不安定核における巨大単極共鳴の測定を理化学研究所加速器施設RIBFにおいて行なう。錫132不安定核ビームを、不安定核生成ビームラインBigRIPSにおいて生成・分離して、強度100kcps 以上のビームを得る。得られたビームをアクティブ標的に照射して錫132の重陽子非弾性散乱を測定し、前方2度近傍および5度以降の微分断面積を得る。励起エネルギーごとに微分断面積を多重極展開することにより単極遷移強度を導出し、単極遷移のエネルギースペクトルを得る。エネルギースペクトルから単極共鳴のエネルギーを計算し、錫132の非圧縮率を決定する。 これまで得られた錫同位体の非圧縮率と合わせて中性子核物質の非圧縮率を導出する。 これらの成果について投稿論文等学術雑誌での発表を行なうとともに、ウェブページなどで結果を解説するなどして研究成果を広く一般にも伝える。
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