研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
15H00837
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河野 通郎 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (40234710)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ハイペロン核子相互作用 / カイラル有効場理論 / 3体力 / ハイパー核 / Λハイペロン / Σハイペロン / Ξハイペロン / 中性子星物質 |
研究実績の概要 |
8月中旬にドイツのユーリッヒ原子核研究センターに4週間滞在し、 Haidenbauer 氏と共同研究を行い、彼らのグループが研究を進めているカイラル有効場理論によるハイペロン-核子相互作用の新しいパラメーターセットを用いて核物質計算を行う準備を行った。核物質計算により、低エネルギー領域でのハイペロンと核子の有効相互作用の性質を知ることができるが、カイラル有効場理論が予測する特徴、特にΛハイペロンとΣハイペロンの結合の強さに関する特徴的性格を明らかにする見通しがついた。すなわち、Λハイペロンは核子との相互作用のみでは原子核に束縛されないが、Σハイペロンとの結合を通じて束縛されるという描像が成り立つ。このようなダイナミカルな結合に関する基本的な情報は、その束縛の機構が実際のΛハイパー核の様々な性質とどのように関連付けることができるかという今後の課題を明らかにした意味で重要である。 Λハイペロンと2核子が関わる3体力については、ドイツのグループが導いた表式を用いて、Λの核媒質内一粒子ポテンシャルエネルギーに対して3体力がもたらす寄与の平均場近似の範囲での表式を求め、定性的な性質を調べた。現状では、そのパラメーターに不定性があるが、3体力が斥力的寄与を与えることが予測され、その大きさは以前に中間子交換模型を用いて評価していたものと同程度であることが確かめられた。核子系の場合に行ったのと同様に、核媒質中で3体力を2体化する近似を導入し、部分波展開を施したうえで核物質計算に組み込む計算に進む見通しがついた。この寄与の評価は、上記の2体力の段階での核媒質中でのΛハイペロンの性質と合わせて、高密度中性子星物質中のΛハイペロンの存在の可能性について重要な意味を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイペロン-核子間の相互作用を、カイラル有効場理論に基づいて導出する研究を進めているのは、現在ドイツのグループのみである。その中心的研究者が所属しているドイツのユーリッヒ原子核研究センターに4週間滞在することにより、共同研究を直接的に行って、カイラル有効場理論に基礎を置いたハイパー核研究を進展させる足掛かりが得られた。カイラル有効場理論が与えるバリオン間相互作用について、2体力に加えて3体力の表式とそのパラメーター化の内容について、開発者と直接議論を行い、必要となる数値計算プログラムのデバッグを行うことができたことは、研究を進める上で意義が大きいものであった。実際、予備計算により、新しい相互作用の特徴をとらえることができ、特にΛハイペロンとΣハイペロンの結合の強さに関する特徴的性格を踏まえてハイパー核の構造を考察する準備ができた。 3体力の問題については、核子のみの場合の3核子相互作用に比べて複雑な、ハイペロンと2核子の間の3体力の構造についての理解を深め、Λハイペロンの核媒質中でのポテンシャルについて平均場レベルでの寄与の表式を得ることができた。並行して進めている核子の3体力の場合、2体力化を行った上で部分波に展開する作業は、特にテンソル成分の場合非常に複雑な解析的計算が必要である。最終的に得られている角運動量の再結合計算を遂行した結果の表式は、ハイペロンを含む3体力の場合にそのまま適用できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の予備計算により、ハイペロン核子相互作用に対してカイラル有効場理論が記述するΛハイペロンとΣハイペロンの結合の特徴的な強さが明らかになったが、その性質がハイパー核そして中性子星核物質の性質の理解にどのような意味を持つかを調べる。 H4-Λと He4-Λの束縛エネルギーに見られる荷電対称性の破れの問題や、高密度中性子星物質におけるΛハイペロンのポテンシャルエネルギーの問題に対して、従来の理解とは異なる結果が得られる可能性を探る。 同時に、カイラル有効場理論が具体的に与えるΛハイペロンを含む3体相互作用が中性子星核物質内においてどのような斥力的寄与を与えるかを、核物質のG行列計算を行って調べる。具体的には、核力の3体力に対して行った処方を踏襲し、中性子核物質中で一つの核子の自由度について積分を行う2体化近似を導入する。その結果の表式を部分波展開した後に、ハイペロン-核子2体相互作用に加える。2体化近似に含まれる物理的な意味、たとえば核媒質内でのパイオンの質量補正の効果としての理解の仕方を検討する。部分波展開の表式は、Λハイペロンの核媒質中でのスピン軌道力の強さの理解に直接つながる。 これらの結果によって明らかになるハイパー核実験データーとの対応は、ユーリッヒの Haidenbauer 氏が中心となって進めている、バリオン間相互作用のカイラル有効場理論によるパラメーター化の改良の方向に示唆を与える情報となることが期待できる。
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