近年、陽子や中性子(核子)間の相互作用の理論的記述は、原子核のエネルギースケールでの有効理論として素粒子標準理論の量子色力学の対称性とその破れの機構に基礎を置くカイラル有効場理論によりパラメーター化されるものが、従来の核力模型に代わり用いられている。ハイペロン(Λ、Σ、Ξ)と核子の相互作用についてもカイラル有効場理論に基づくパラメーター化がドイツの研究者によって進展している。そのグループと情報交換を行いながら、原子核とハイペロンの相互作用についてカイラル有効場理論がどのような新しい知見をもたらすか、そして中性子星として存在する高密度核物質の中でのハイペロンの役割に対してどのような示唆を与えるかを調べた。具体的には、相互作用の高運動量成分を適切に処理し、核媒質効果を取り入れるG行列計算を行って、ハイペロンと核子の有効相互作用を求めた。 (1) 従来の相互作用模型に比べ、ΛとΣが結合する効果が強く、核媒質中でΛの束縛をもたらす引力はこの結合効果による。高い密度の核物質内ではその結合が抑制され、Λの受ける引力は弱くなる。太陽質量の2倍の中性子星が存在するという最近の観測データーは、中性子星物質でΛハイペロンが析出する可能性を否定すると考えられているが、カイラル有効場理論は望ましい結果を与えることがわかる。 (2) 核子系では3核子力が決定的に重要な役割を果たす。カイラル有効場理論では、現象論に頼らずに系統的に3体力の寄与が評価できる。ハイペロンに関しても、3体力が基本的に重要であると予想される。3体力をそのまま扱うのは困難であり、一つの自由度を核媒質中で積分して有効2体力化を行う方法が有効である。ハイペロンの関わる3体力について、有効2体力化の表式を導出しG行列計算に取り入れ、その斥力的寄与を評価することができた。この寄与も、高密度中性子星物質の考察にとって基本的に重要である。
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