研究実績の概要 |
π中間子が錫121の原子核に束縛した状態=π中間子錫原子を精密分光することにより、カイラル対称性の破れに伴う自明でない真空の構造についての研究を推進した。π中間子錫原子は、(d,3He) 反応により原子核表面にπ中間子が束縛した状態として生成し、反応Q値の測定により質量分光する。質量スペクトルの分解能としてこれまで 400 keV (FWHM) だったものを 280 keV まで改善することに成功した。同時に、反応角度が有限な領域でのπ中間子生成断面積の計測を行い、1s, 2p 状態それぞれが反応角度により生成断面積の変化する様子を世界で初めて観測した。生成断面積の角度依存性は、運動量移行依存性として反応理論との比較を行った結果、実験結果と良く一致する事が確認された。しかし、実験で決定した 1s と 2p の生成断面積の比は、理論予想の 1/5 程度となっていることが分かった。スペクトルの解析により1s, 2p 状態、それぞれの束縛エネルギーと幅を精度良く同定することに成功したが、同時に束縛エネルギーの差分を導出することで系統誤差を大幅に縮小する事にも成功した。得られた束縛エネルギーや幅の間の相関を考慮した解析を行うことで、カイラル対称性の破れを表すカイラル凝縮の大きさをこれまでを上回る精度で導出する事に成功した。さらに 150 keV を伺う分解能を達成し、系統的なπ中間子錫原子の高精度分光を実施するための実験条件の詳細な検討を行った。これによりカイラル凝縮の密度依存性についての知見を得られる可能性がある事がわかった。このため分解能改善の要となる真空中で動作可能な高計数率用3面交代型低圧多芯式ドリフト計数箱と新型読み出しシステムの開発・製作を行った。系統計測実験はRIBF課題審査委員会で既に採択されており、近々ビームタイムが配分される予定である。
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