本研究は、誤り訂正符号技術の計算限界を解明することを目的としている。特に、計算量制限通信路を考え、計算限界の解明を目指す。 計算量制限通信路は、Lipto (1994) が導入した概念であり、彼は二元対称通信路向けの符号を計算量制限通信路向けに変換する方法を示した。具体的には、送受信者間でランダムな鍵を共有する設定を考え、その鍵を利用して、送信符号語の位置をランダムに置換し、ランダムマスクでその情報を隠すという方法を提案している。この方法により、通信路において任意の誤りが発生したとしても、その誤りの位置はランダムに置換されるため、ランダム誤りが挿入されたとみなすことができ、二元対称通信路向けの符号で訂正することが可能となる。 Lipton の手法では、秘密鍵が1回限りしか有効でないという問題がある。つまり、複数回の誤り訂正を行うためには、その数に合わせた数の鍵を共有する必要がある。この状況は、秘密鍵暗号における使い捨て鍵暗号と同じである。使い捨て鍵暗号は、十分な秘匿性を達成できるが、複数回の通信のためにはその数に合わせた数の鍵を共有する必要がある。 利用回数に制限のある使い捨て鍵暗号に対し、現代的な秘密鍵暗号では、一つの鍵を共有することで任意の回数の暗号化通信を保証する仕組みを持っている。さらに、攻撃者が暗号化関数や復号関数を利用できるような状況を考慮したより強力な安全性を考え、現在ではそのような安全性が標準的とも考えられている。 本研究では、Lipton 方式を使い捨て鍵による誤り訂正符号と考え、その安全性を現代的な暗号技術と同等に高めた方式を構築した。具体的には、Guruswami と Smith (2016) の方式を、秘密鍵設定における誤り訂正符号とみなし、その方式に対し、通信路が符号化関数と復号関数を利用できたとしても問題なく誤り訂正ができることを証明した。
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