研究領域 | 多面的アプローチの統合による計算限界の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H00852
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
泉 泰介 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20432461)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分散アルゴリズム / グラフ理論 / 個体群プロトコル |
研究実績の概要 |
計算機ネットワーク上の効率的な計算、協調を目的としたアルゴリズムは分散・並列アルゴリズ ムと呼ばれ、種々の特徴的な要因によりその計算複雑性の理論は、逐次計算における複雑性理論とは異なる形で発展を遂げてきた。そのため、両者をより高次な視点から俯瞰し、共通の困難性を見いだすような視点からの研究はあまり進んでいない。このような状況を打破するため、本研究では特に分散並列計算をある種の情報欠落計算の一種と位置づけ、逐次計算における同種のパラダイムとの間で共通する困難性の本質を括り出すことを目標とし、研究を遂行した。計算機ネットワークは計算機を頂点,通信リンクを辺とみなすグラフによりモデル化することが可能であり,またそのうえの諸問題はグラフアルゴリズム分野における諸問題と自然な形で対応する.このようなセッティングにおけるアルゴリズム設計(分散グラフアルゴリズム)において,特に低競合ショートカットと呼ばれる概念を用いたアルゴリズム設計に注力し,大きな成果を得た.低競合ショートカットは分散グラフアルゴリズムにおける多くの問題が有する共通の困難性を抽象化しており,それを分散的に構成する効率的なアルゴリズムから最小生成木問題,最小カット問題等の多くの問題に対する効率的な分散アルゴリズムを自動的に構成することが可能である.本研究では,これまで未解決であった定数種数グラフに対して低競合ショートカットを構成するほぼ時間最適な分散アルゴリズムを提案した.また上記以外の研究としては,個体群プロトコルにおける緩安定計算の複雑性,自律分散ロボット群のアルゴリズムに関する時間計算量解析等について新たな成果を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行に際しての一つの大きな目標は,分散計算および逐次計算における共通の困難性を見出し,互いの分野における研究成果の相互利用を目指す点が挙げられるが,本研究で検討した低競合ショートカットに基づく分散アルゴリズムの設計においては,グラフクラスの特徴づけ,グラフの曲面埋め込み,グラフマイナー理論等の一般のグラフアルゴリズムにおける各種の既知の成果がふんだんに利用されている.またそれに関連し,当該領域内でのディスカッションが非常に大きな役割を果たしている.これらを鑑みるに,本研究は上述の目標に向かって着実な進捗を遂げているといえる.また,同研究テーマ以外にも,情報理論に基づく通信複雑性へのアプローチ等で,関連研究者とのディスカッションを通じて,次年度以降の研究推進の基盤が確立されてつつある.全体として研究は順調に進展していると結論できる.
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今後の研究の推進方策 |
低競合ショートカットに関しては,各種グラフクラスにネットワークトポロジを制限した場合の存在性証明とそのアルゴリズム設計が課題として残されている.重要かつ未解決なグラフクラスとして,禁止マイナーを持つグラフクラス,Bounded-Growth族に含まれるグラフクラス,高い辺連結度を持つグラフクラス等が挙げられる.また,通信複雑性理論における,量子もつれを許した通信系における複雑性の解明について,現在共同研究者と議論を重ねており,この方向性での研究の発展が見込まれる.
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