研究領域 | 人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合 |
研究課題/領域番号 |
15H00861
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小島 隆彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20264012)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体 / ポルフィリン超分子 / 二酸化炭素固定 / プロトン共役電子移動 / 光誘起電子移動 |
研究実績の概要 |
1.1,2-ビス(2-ピリジルメチルチオ)エタン(L1)及び1,3-ビス(2-ピリジルメチルチオ)プロパン (L2)を有するNi(II)錯体の合成とキャラクタリゼーションを行った。ジメチルアセトアミド(DMA)/水(8:2 v/v)中、それらの錯体を触媒とするCO2下での電解触媒反応を行ったところ、COは観測されず、水素が発生することがわかった。特に、L1を配位子とするNi(II)錯体を用いた場合、アスコルビン酸緩衝液中(pH 4)、-0.9 V (vs SCE)の印加電圧のもと、ファラデー効率96%で水素発生が進行することが明らかとなった。 2.L1を配位子とするFe(II)錯体の合成とキャラクタリゼーションを行った。その錯体を作用電極のカーボンペーパー上に担持した電極を用いて、CO2雰囲気下、水1 Mを加えたDMA中、印加電圧-1.7 Vで15時間、定電位電解を行ったところ、水素の生成とともにCOの生成が確認された。15時間後の水素発生の触媒回転数(TON)は729、CO発生のTONは225だった。 3.合成した三種の錯体に関して、CO2雰囲気下、DMA/H2O (9:1 v/v)混合溶媒中、[Ru(bpy)3]2+ (bpy = 2, 2’-bipyridine)を光増感剤、BNAH (= 1-benzyl-1,4-dihydro- nicotinamide)を犠牲還元剤に用いて、450 nmの光を照射し、CO2の光触媒的還元反応を試みた。2つのNi(II)錯体については、光触媒的水素発生のみが観測された。一方、Fe(II)-L1錯体を触媒として用いた場合には、3時間後の水素生成のTONは2.2であるのに対し、CO生成のTONは19.4だった。このことは、Fe(II)-L1錯体がCO2の光還元によるCO生成反応の触媒として機能することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初注目していたNi(II)錯体は、水素発生の優れた触媒であることが明らかになったものの、CO2の還元には有効ではないことが判明した。しかしながら、1,2-ビス(2-ピリジルメチルチオ)エタン(L1)を配位子とするFe(II)錯体が、CO2の光還元系の触媒となることが明らかとなった。今後は、この結果を踏まえて、Fe(II)錯体に注目し、反応条件や配位子の改良を含めて検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1.Fe(II)-L1錯体を用いた光触媒的CO2還元系の触媒効率を向上させるため、反応条件の最適化を目指す。同時に、現在進行中である、1,3-ビス(2-ピリジルメチルチオ)プロパン (L2)を配位子とするFe(II)錯体の合成とキャラクタリゼーションを進める。 2.L1にプロトン受容部位としての非配位ピリジンペンダントを導入した、新規4座キレート配位子を合成し、そのFe(II)錯体の合成とキャラクタリゼーションを行う。また、その錯体の光触媒的CO2還元反応を行う。 3.周辺部にカルボキシル基を導入した、サドル型ポルフィリンのCu(II)錯体を構成単位とする超分子系によるCO2の包接とその光還元反応については、CO2包接挙動は明らかになっているが、そのCO2包接結晶の作成と結晶構造の決定を行う予定である。さらに、その結晶を利用して、電子源存在下での光誘起電子移動に基づく、新規なCO2還元触媒系の構築を目指して、反応条件の策定を行う。さらに、ポルフィリンにルイス酸性点としての各種反磁性金属イオンを導入し、CO2の光還元を試みる。
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