植物の葉緑体に存在する光捕集系は、多数の色素がタンパク質に結合し、環状に集積した美しい構造体を形成していることが明らかとなっている。光合成の初期過程では、この色素の集積体(アンテナ部)が可視光を効率よく吸収し、色素間でのエネルギーマイグレーションを介して、最終的にエネルギーが光合成活性中心に伝達され、光合成反応がスムーズに進行する。本研究では、光合成初期過程の光捕集を行うアンテナ組織を模倣するために、これまでの科学研究費補助金の支援を受けて精力的に実施しているヘムタンパク質人工集積化技術を活かして、色素をタンパク質マトリクス内に環状に配置した人工光捕集デバイスの構築の実施を試みた。 本申請研究が採択されてからまだ半年しか経過していないため、上記の目的を完全に達成することは出来ていないが、現時点で、HTHP(hexameric tyrosine-coordinated heme protein)というヘムタンパク質六両体の補因子ヘムを亜鉛ポルフィリンあるいは亜鉛クロリンに置換して、光捕集を行うモデル集積体の構築に成功した。さらに、光照射による色素間のエネルギー移動を種々の光測定(特に、蛍光消光)により証明し、人工光捕集アンテナとして機能することを実証した。今後、HTHPの中心部に触媒を埋め込み、光エネルギーを化学エネルギーに変換して、触媒的な水素発生や水の酸化をつかさどる人工合成系の創出をめざしたい。 なお、これまでの短期間で関連する学会誌(イギリス化学会誌)に1報報告し、さらに、国内外の学会での発表で高い評価を得ている。
|