金属錯体はその活性や触媒選択性を分子レベルで制御することができることから、分子触媒として注目を集めている。特に、人工光合成への応用の観点から光化学的CO2還元触媒の開発が活発に研究されているが、同反応の温度依存性を研究した例は少ない。本研究では、ルテニウム錯体触媒を用いた光化学的CO2還元反応を低温条件下で行うことによって反応生成物比の変化を検討するとともに、触媒反応に関する情報を得ることを目的とする。 我々はこれまでルテニウム錯体を触媒とする光化学的CO2還元反応を、水をプロトン源とすることによって行ってきたが、本研究では低温条件下(-40℃~40℃)で反応を行うためにエタノールをプロトン源として用いた。ルテニウム錯体を触媒とする光還元反応は光増感分子と電子源を共存させる必要があり、光照射により光増感分子が電子源から触媒へと電子を供給する電子リレー系と、電子を受け取った触媒がCO2を還元する触媒反応系から構成されることがわかっている。本研究では、エタノールの比率を増加させることによって触媒反応の律速過程が触媒反応系から電子リレー系へとシフトすることを明らかにした。このことは還元反応生成物比の温度依存性にも影響し、エタノール比が低い場合には温度が高くなるにつれてギ酸生成が増加するのに対し、エタノール比が高い場合には温度が高くなるにつれて一酸化炭素生成が増加することを見出した。これらの結果から、両者の活性化エネルギー差を求めることができ、触媒反応機構に関する知見を深めることができた。
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