緑藻Chlamydomonas reinhardtiiの[FeFe]ヒドロゲナーゼHydA1 は、コンパクトで有りながら非常に高い水素発生活性をもつ酵素として知られているが、活性中心であるHクラスターの形成と保持に厳密に嫌気的な環境を必要とし、生化学的な解析や応用研究が困難である。本研究課題では、酸素分圧1 ppm 以下の嫌気環境でのタンパク質生産を容易に実現できる、絶対嫌気性の光合成細菌Chlorobaculum tepidumの外来遺伝子発現系を利用し、高い水素発生活性を保持したHydA1の大量生産系を確立することを主な目的としていた。 28年度までの研究により、C. tepidumにおいて高レベルのタンパク質発現は遺伝子のN末端領域の塩基配列に強く依存することを明らかにした。29年度はこの研究成果を利用し、Hクラスター形成に必要な成熟化タンパク質であるHydE、HydF、HydGのHydA1との高レベル共発現を試みた。全長にわたるコドン使用頻度の最適化と、N末端に付加するアフィニティータグの塩基配列を検討した結果、Strepタグ付きの遺伝子の導入によってC. tepidum内でHydEFGを高発現できることがわかった。HydA1と共発現させた結果、ほぼ全てのHydA1にHクラスターを保持させることに成功した。 驚くべきことに、HydA1とHydEFGのC. tepidum共発現株は、培養中に光依存的に水素ガスを発生させていることがわかった。HydA1は本来、光合成伝達系で働くフェレドキシンPetFをプロトン還元の電子供与体としているが、その分子認識は厳密ではなく、C. tepidumの細胞内では別の電子供与体が機能している可能性が示唆された。
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