研究領域 | プラズマ医療科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
15H00893
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
手老 龍吾 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40390679)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / 大気圧プラズマ / 原子間力顕微鏡 / 蛍光顕微鏡 |
研究実績の概要 |
プラズマ誘起の活性種が細胞に到達した際に細胞膜にどのように作用し、どうやって細胞膜を通り抜けて細胞内に到達するのか、そのメカニズムと膜内分子組成・膜内構造依存性を明らかにすることを目的とする。本年度は下記の3つの課題に取り組んだ。 1). 誘電体バリア放電(DBD)装置の改良とプラズマ照射量の規格化:我々が開発した支持脂質二重膜(SLB)へのプラズマ照射装置について装置の改良と条件の最適化を行うことで放電特性を安定化した。放電時の電流-電圧特性をモニターすることで、投入電力量をプラズマ照射量のより精度の良い指標として用いることができるようになった。 2). SLBへのプラズマ照射による脂質膜物性変化の計測:緩衝液を介してSLBにDBDプラズマ照射を行い、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡による構造観察では変化がない条件であってもプラズマ照射によって脂質膜の流動性低下が起きること、照射量に依存して低下の度合が上昇することを明らかにした。我々が以前に報告したプラズマ誘起の小孔形成の前段階として、脂質の酸化による膜物性の変化が起きていることを明らかにした。活性酸素種による脂質の酸化はアシル鎖の二重結合部分で進行することが知られており、脂質二重膜への大気圧プラズマ照射によって脂質酸化が進行し、その度合に応じて膜流動性の変化と小孔形成が起きる機構を提案した。 3). エレクトロフォーメーション法による巨大単層膜ベシクル(GUV)作製:蛍光標識脂質を混入したGUVにより「殻」を染色することに加え、緑色蛍光タンパク質(GFP)を内包したGUVを作製することで「中身」を染色したGUVを調製することで、内包物の漏出の有無とその過程を調べる実験系を確立した。GUVへ条件を変えて大気圧プラズマジェットを照射することで、内包物の漏出およびGUVの崩壊の2段階の過程が進行することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画に記述した3つの実験課題について、上述の通り順調に研究成果を挙げることができている。また、多成分脂質二重膜へのプラズマ照射など、次年度に進める予定の研究課題についても予備実験を行うことができた。領域内での共同研究として、プラズマ誘起活性種の同定、また他のプラズマ源を用いてのSLBへの小孔形成の観察なども行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は主に以下の2つの課題に取り組む。 1). SLB系: 大気圧プラズマ照射効果の膜構成成分依存性 これまでは細胞膜の最も主要な構成成分であるphosphatidylcholine (PC)単成分の脂質二重膜を用いてきたが、もう1つの主要成分であるコレステロール(Chol)を含むSLBへの大気圧プラズマ照射を行う。Cholを添加することで脂質二重膜の力学的強度が増すことが知られているが、Cholも生体内で活性酸素による酸化を受けることが知られている。PC+Chol混合SLBを作製し、プラズマ照射による膜物性変化および小孔形成への膜成分依存性を詳細に調べる。 2). GUV系: 単一GUV 法による膜変形および脂質膜透過性の速度論的解析 平成27年度の実験結果から、GUVの内包物漏出および膜崩壊は大気圧プラズマジェットの直接照射だけでなく、プラズマ照射水の添加、いわゆる"間接照射"によっても進行することが分かった。そこで、顕微鏡観察下でGUVにプラズマ照射水を添加することで、GUVの形状変化・内包物の漏出・膜崩壊過程とその経時変化を直接観察する。
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