公募研究
プラズマ照射は、がん細胞のアポトーシス誘導や皮膚損傷の治癒・再生に極めて有為な効果を示す。がん細胞における細胞死誘導の際には、プラズマにより生じるラジカルが酸化DNA損傷を誘導することが示されているが、これらの効果を生み出す「プラズマと生体組織の反応」の分子メカニズムには不明な点が多い。本研究では、個体で生じる突然変異を効率良く検出できるHITECマウスを用いてプラズマ照射が引き起すDNA損傷と突然変異の解析を進め、治療に使用されている抗がん剤や放射線の効果と比較することにより、プラズマ照射の遺伝毒性に関する安全性評価のための研究基盤を提供することを目的とする。平成27年度はHITECマウス個体を用いて下記の2つの実験系でプラズマ照射による細胞死や突然変異解析を行った。(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ照射の影響 プラズマ照射は、皮膚疾患や傷病組織の治癒や再生に極めて有為な効果を示す一方で、遺伝子DNAを酸化して突然変異を誘発する酸素ラジカルや窒素ラジカルを発生させる。トーチ型空気プラズマ照射装置を用いて脱毛したマウス皮膚に8分間照射して、24時間後に安楽死させたのち解剖して皮膚組織の標本を作製し、HE染色および抗リン酸化H2AX抗体および抗ssDNA抗体を用いた免疫染色を行った。照射された部位では表皮細胞の核がHEおよび抗リン酸化H2AX抗体、抗ssDNA抗体で全く染色されず、細胞形態を保ったまま重度のDNA損傷が生じている可能性が考えられた。(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマの影響 生体内の正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響を検証するために、増殖停止状態のマウス脾臓細胞にプラズマを照射したのち増殖刺激を行い、突然変異解析を行った結果、1および2分間照射された細胞の突然変異頻度が未照射と比較するとそれぞれ5.7倍、6.5倍上昇していた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はHITECマウス個体を用いて下記の2つの実験系でプラズマ照射によるDNA損傷、細胞死や突然変異解析を行った。(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ照射の影響 トーチ型空気プラズマ照射装置を用いて脱毛したマウス皮膚に8分間照射して、24時間後に安楽死させたのち解剖して皮膚組織の標本を作製し、HE染色を行って組織の観察を行ったところ、炎症や顕著な病変は観察されなかったが、照射部の表皮細胞では核の染色が全く見られないという奇妙な結果が得られている。抗リン酸化H2AX抗体および抗ssDNA抗体を用いた免疫染色を行った結果、照射された部位では表皮細胞の核が抗リン酸化H2AX抗体や抗ssDNA抗体で全く染色されない。抗リン酸化H2AX抗体による免疫染色では非照射部位は軽度の染色が認められ、境界領域では強度の染色が認められた。これらの観察から細胞形態を保ったまま重度のDNA損傷が生じている可能性が考えられた。予備的な突然変異解析では、照射された皮膚における突然変異頻度の顕著な上昇は観察されていない。(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマの影響 生体内の正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響を検証するために、増殖停止状態のマウス脾臓細胞にトーチ型空気プラズマ照射装置を用いてプラズマを照射したのち増殖刺激を行い、突然変異解析を行った結果、1および2分間照射された細胞の突然変異頻度が未照射と比較するとそれぞれ5.7倍、6.5倍上昇していた。これらのことから、プラズマの医療応用は潜在的な遺伝毒性に留意して進める必要があることが明らかになった。
(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ影響 実際に使用されているプラズマでマウス皮膚を処理し、皮膚の病理解析や抗リン酸化H2AX抗体や抗8-oxoG抗体を用いた免疫染色を行い、細胞死やDNA損傷を検討する。また、プラズマ処理したHITECマウス皮膚からDNAを抽出して突然変異解析を行う。(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響 DNA損傷による細胞死誘発能および突然変異誘導能を抗がん剤投与やX線照射とプラズマ処理との間で比較検討するために、がん細胞(HeLe細胞)を用いて、同程度の細胞死を誘発する用量を決定した後、DNA損傷、細胞死および突然変異を解析する。がん細胞とは異なり、生体内の正常細胞は増殖を停止した状態で存在し、必要に応じて発動される増殖刺激を受けて数回分裂する。マウスから 取り出した脾臓細胞はそのままでは培地中で培養しても増殖を停止したままである。培地に FCSと増殖刺激剤ConAとPLSを添加することで容易に増殖停止状態から増殖状態へ移行させることが可能である。生体内の正常細胞に対するプラズマの生物影響を検証するために、HeLe細胞を用いて決定した用量のプラズズマで増殖停止状態の脾臓細胞を処理し、細胞死と突然変異の解析を行ない、 プラズズマ処理の突然変異誘導能を検討する。(3) プラズマ活性化溶液の生物影響 プラズマ照射された活性化溶液はがん細胞を選択的に死滅させることが示されている。プラズマ活性溶液の正常組織に対する影響を検証するために、がん治療効果が認められている用量のプラズマ活性溶液をHITECマウスの腹腔内に投与し、脳を含む主要臓器の病理解析と抗リン酸化H2AX抗体や抗8-oxoG抗体を用いた免疫染色を行い、細胞死やDNA損傷を検討する。さらに各臓器からDNAを抽出して突然変異解析を行い、プラズマ活性化溶液の生物影響を検討する。
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