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2015 年度 実績報告書

HITECマウスを用いたプラズマのゲノム影響評価

公募研究

研究領域プラズマ医療科学の創成
研究課題/領域番号 15H00897
研究機関九州大学

研究代表者

中津 可道  九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00207820)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード突然変異 / DNA損傷 / 細胞死 / 遺伝子改変マウス
研究実績の概要

プラズマ照射は、がん細胞のアポトーシス誘導や皮膚損傷の治癒・再生に極めて有為な効果を示す。がん細胞における細胞死誘導の際には、プラズマにより生じるラジカルが酸化DNA損傷を誘導することが示されているが、これらの効果を生み出す「プラズマと生体組織の反応」の分子メカニズムには不明な点が多い。本研究では、個体で生じる突然変異を効率良く検出できるHITECマウスを用いてプラズマ照射が引き起すDNA損傷と突然変異の解析を進め、治療に使用されている抗がん剤や放射線の効果と比較することにより、プラズマ照射の遺伝毒性に関する安全性評価のための研究基盤を提供することを目的とする。
平成27年度はHITECマウス個体を用いて下記の2つの実験系でプラズマ照射による細胞死や突然変異解析を行った。
(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ照射の影響 プラズマ照射は、皮膚疾患や傷病組織の治癒や再生に極めて有為な効果を示す一方で、遺伝子DNAを酸化して突然変異を誘発する酸素ラジカルや窒素ラジカルを発生させる。トーチ型空気プラズマ照射装置を用いて脱毛したマウス皮膚に8分間照射して、24時間後に安楽死させたのち解剖して皮膚組織の標本を作製し、HE染色および抗リン酸化H2AX抗体および抗ssDNA抗体を用いた免疫染色を行った。照射された部位では表皮細胞の核がHEおよび抗リン酸化H2AX抗体、抗ssDNA抗体で全く染色されず、細胞形態を保ったまま重度のDNA損傷が生じている可能性が考えられた。
(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマの影響 生体内の正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響を検証するために、増殖停止状態のマウス脾臓細胞にプラズマを照射したのち増殖刺激を行い、突然変異解析を行った結果、1および2分間照射された細胞の突然変異頻度が未照射と比較するとそれぞれ5.7倍、6.5倍上昇していた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度はHITECマウス個体を用いて下記の2つの実験系でプラズマ照射によるDNA損傷、細胞死や突然変異解析を行った。
(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ照射の影響 トーチ型空気プラズマ照射装置を用いて脱毛したマウス皮膚に8分間照射して、24時間後に安楽死させたのち解剖して皮膚組織の標本を作製し、HE染色を行って組織の観察を行ったところ、炎症や顕著な病変は観察されなかったが、照射部の表皮細胞では核の染色が全く見られないという奇妙な結果が得られている。抗リン酸化H2AX抗体および抗ssDNA抗体を用いた免疫染色を行った結果、照射された部位では表皮細胞の核が抗リン酸化H2AX抗体や抗ssDNA抗体で全く染色されない。抗リン酸化H2AX抗体による免疫染色では非照射部位は軽度の染色が認められ、境界領域では強度の染色が認められた。これらの観察から細胞形態を保ったまま重度のDNA損傷が生じている可能性が考えられた。予備的な突然変異解析では、照射された皮膚における突然変異頻度の顕著な上昇は観察されていない。
(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマの影響 生体内の正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響を検証するために、増殖停止状態のマウス脾臓細胞にトーチ型空気プラズマ照射装置を用いてプラズマを照射したのち増殖刺激を行い、突然変異解析を行った結果、1および2分間照射された細胞の突然変異頻度が未照射と比較するとそれぞれ5.7倍、6.5倍上昇していた。これらのことから、プラズマの医療応用は潜在的な遺伝毒性に留意して進める必要があることが明らかになった。

今後の研究の推進方策

(1)マウス皮膚組織に対するプラズマ影響 実際に使用されているプラズマでマウス皮膚を処理し、皮膚の病理解析や抗リン酸化H2AX抗体や抗8-oxoG抗体を用いた免疫染色を行い、細胞死やDNA損傷を検討する。また、プラズマ処理したHITECマウス皮膚からDNAを抽出して突然変異解析を行う。
(2)マウス脾臓細胞を用いた正常細胞に対するプラズマ照射の生物影響 DNA損傷による細胞死誘発能および突然変異誘導能を抗がん剤投与やX線照射とプラズマ処理との間で比較検討するために、がん細胞(HeLe細胞)を用いて、同程度の細胞死を誘発する用量を決定した後、DNA損傷、細胞死および突然変異を解析する。がん細胞とは異なり、生体内の正常細胞は増殖を停止した状態で存在し、必要に応じて発動される増殖刺激を受けて数回分裂する。マウスから 取り出した脾臓細胞はそのままでは培地中で培養しても増殖を停止したままである。培地に FCSと増殖刺激剤ConAとPLSを添加することで容易に増殖停止状態から増殖状態へ移行させることが可能である。生体内の正常細胞に対するプラズマの生物影響を検証するために、HeLe細胞を用いて決定した用量のプラズズマで増殖停止状態の脾臓細胞を処理し、細胞死と突然変異の解析を行ない、 プラズズマ処理の突然変異誘導能を検討する。
(3) プラズマ活性化溶液の生物影響 プラズマ照射された活性化溶液はがん細胞を選択的に死滅させることが示されている。プラズマ活性溶液の正常組織に対する影響を検証するために、がん治療効果が認められている用量のプラズマ活性溶液をHITECマウスの腹腔内に投与し、脳を含む主要臓器の病理解析と抗リン酸化H2AX抗体や抗8-oxoG抗体を用いた免疫染色を行い、細胞死やDNA損傷を検討する。さらに各臓器からDNAを抽出して突然変異解析を行い、プラズマ活性化溶液の生物影響を検討する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] BTK gene targeting by homologous recombination using a helper-dependent adenovirus/adeno-associated virus hybrid vector2016

    • 著者名/発表者名
      Yamamoto H, Ishimura M, Ochiai M, Takada H, Kusuhara K, Nakatsu Y, Tsuzuki T, Mitani K, Hara T.
    • 雑誌名

      Gene Ther.

      巻: 23 ページ: 205-213

    • DOI

      doi: 10.1038/gt.2015.91.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Differentiation-inducing factor-3 inhibits intestinal tumor growth in vitro and in vivo2015

    • 著者名/発表者名
      Kubokura N, Takahashi-Yanaga F, Arioka M, Yoshihara T, Igawa K, Tomooka K, Morimoto S, Nakatsu Y, Tsuzuki T, Nakabeppu Y, Matsumoto T, Kitazono T, Sasaguri T.
    • 雑誌名

      J. Pharmacol. Sci.

      巻: 127 ページ: 446-455

    • DOI

      doi: 10.1016/j.jphs.2015.03.005.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] UV-induced mutations in epidermal cells of mice defective in DNA polymerase  and/or 2015

    • 著者名/発表者名
      Kanao R, Yokoi M, Ohkumo T, Sakurai Y, Dotsu K, Kura S, Nakatsu Y, Tsuzuki T, Masutani C, Hanaoka F.
    • 雑誌名

      DNA Repair (Amst)

      巻: 29 ページ: 139-146

    • DOI

      doi: 10.1016/j.dnarep.2015.02.006.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Mutyh欠損マウスを用いた酸化ストレス誘発突然変異と発がんの解析2015

    • 著者名/発表者名
      鷹野典子、大野みずき、佐々木史子、山内一己、中別府雄作、中津可道、續輝久
    • 学会等名
      日本分子生物学会第38回年会・日本生化学会第88回大会合同大会
    • 発表場所
      神戸
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04
  • [学会発表] 酸化ストレス誘発マウス小腸発がん実験から見えてきたこと2015

    • 著者名/発表者名
      中津可道
    • 学会等名
      日本環境変異原学会第44回大会
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      2015-11-27 – 2015-11-28
    • 招待講演
  • [学会発表] 大野みずき、鷹野典子、佐々木史子、日高京子、中津可道、續輝久2015

    • 著者名/発表者名
      鷹野典子、大野みずき、佐々木史子、中別府雄作、日高京子、中津可道、續輝久
    • 学会等名
      日本環境変異原学会第44回大会
    • 発表場所
      福岡
    • 年月日
      2015-11-27 – 2015-11-28
    • 招待講演
  • [学会発表] プラズマの直接照射及び照射溶液による突然変異の誘導2015

    • 著者名/発表者名
      中津可道、大野みずき、鷹野典子、北崎訓、古閑一憲、天野孝昭、白谷正治、田中昭代、續輝久
    • 学会等名
      日本癌学会第74回学術総会
    • 発表場所
      名古屋
    • 年月日
      2015-10-08 – 2015-10-10
  • [学会発表] Role of the oxidative DNA damage repair system in somatic and germline mutations in mice2015

    • 著者名/発表者名
      Mizuki Ohno, Noriko Takano, Kunihiko Sakumi, Ryutaro Fukumura, Yuki Iwasaki, Toshimichi Ikemura, Yoichi Gondo, Yusaku Nakabeppu, Yoshimichi Nakatsu, Teruhisa Tsuzuki
    • 学会等名
      Zing conference "Genome Integrity"
    • 発表場所
      Cairns, Australia
    • 年月日
      2015-07-31 – 2015-08-06
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Mismatch Repair Deficient Mice Show Susceptibility to Oxidative Stress-induced Intestinal Carcinogenesis2015

    • 著者名/発表者名
      Yoshimich Nakatsu, Jingshu Piao, Takuya Hashizume, Mizuki Ohno, Kenichi Taguchi, Teruhisa Tsuzuki
    • 学会等名
      15th International Congress of Radiation Research
    • 発表場所
      Kyoto, Japan
    • 年月日
      2015-05-26 – 2015-05-29
    • 国際学会
  • [図書] 日本臨牀(増刊号)最新臨床大腸癌学 基礎研究から臨床応用へ (Ⅲ-2-(6))酸化DNA損傷と大腸発癌)2015

    • 著者名/発表者名
      續輝久、大野みずき、中津可道
    • 総ページ数
      715
    • 出版者
      株式会社 日本臨牀社

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公開日: 2017-01-06  

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