本研究は、生体膜内における放電活性種の力学的挙動および膜構成分子間の解離反応について、古典および量子分子動力学法を併用して解析することにより、細胞膜中における放電活性種の輸送特性および構造変位を理論的かつ定量的に解明していくものである。 期間内において、(1)放電活性種を内在する単一および複合生体膜の数値モデルを構築する、(2)生体膜中における酸素活性種の輸送係数を古典分子動力学法により導出する、(3)酸素活性種の投入量に対する損傷膜の密度変化及び残存分布を推定する、(4)リン脂質の解離による上記パラメータへの影響を量子計算的に解明する、(5)各膜部位における活性種輸送の相違を解析して、膜浸透率を導出する、(6)膜構成分子間の相互作用を構造変位から定量化し、膜安定度としてデータベース化する、といった各目標を達成するとともに、成果の有機的連携により研究全体を推進する計画であった。 本年度は、平成27年度の結果を利用して、複合脂質二重膜の分子モデリングおよび膜分子間の相互作用の定量評価と膜安定度の導出を行うことを主目的として、【課題1】複合脂質二重膜モデルへの拡張、【課題2】各膜部位における活性種輸送の変位解析および膜浸透率の導出、【課題3】膜構成分子間における相互作用の定量化および膜安定度のデータベース化、を行った。 【課題1】に関しては、膜構成ソフトウエアを用いて、コレステロールを含むリン脂質で構成された二重膜をモデル化し、定常状態を導出した。【課題2】では、古典的分子動力学法を用いて膜内の時系列解析を行い、複数の酸素活性種に対する空間的輸送特性を検証した。【課題3】に関しては、活性種の拡散係数や膜変位状態をデータに整理して大容量サーバに保管した。
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