公募研究
近年、プラズマ照射の医療への応用が急速に進み、有為な効果が示されているものの、その効果を証明するメカニズムについては未解明な部分が多い。プラズマ照射法として、組織や細胞に直接的にプラズマを照射する直接法より、予めプラズマを照射して調製した培地plasma-activated medium(PAM)を負荷する間接法の方が「より安心・安全なプラズマ医療」に繋がると判断した。本申請課題では、PAM負荷に対する細胞応答ダイナミクスの解明とPAMの臨床応用に向けた橋渡しとなる情報の提供を目的とし、今年度は以下に示す結果を得た。1.ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞A549細胞にPAMを負荷したところ、細胞傷害やDNAの断片化(TUNEL法)、poly(ADP-ribose) polymerase-1の活性化、NAD+、ATPの枯渇が認められたが、これらは鉄キレーターである bipyridyl(BP)の添加により抑制された。また、PAM負荷による細胞内の鉄イオンの増加、hydroxyl radicalの産生も確認された。PAM負荷により細胞内の鉄貯蔵タンパクであるferritinタンパク量の低下が観察されたが、その低下はBP、catalase、MG132(プロテアソーム阻害剤)、leupeptin(リソゾームプロテアーゼ阻害剤)により抑制された。2.創傷治癒へのmild PAMの応用を目指した研究の中で、mild PAMを線維芽細胞に負荷した場合、heme oxygenase-1(HO-1)発現が亢進することを確認していた。さらに転写因子Nrf2の核移行が認められた結果より、mild PAM負荷による酸化ストレス抵抗性獲得にはNrf2-ARE経路の活性化が関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
PAMのA549細胞アポトーシス増幅機構として細胞内鉄の関与について明らかにしてきたが、PAM負荷によりhydroxyl radicalが検出されたことより、PAM中の主活性粒子であるH2O2と細胞内鉄とのFenton反応が進行したことが示唆された。さらに、hydroxyl radicalにより細胞内鉄貯蔵タンパクであるferritinの分解が進行し、細胞内の遊離鉄が急激に増加し、それがFenton反応をさらに加速化し、結果的にDNA断片化など細胞内の各コンパートメントでの傷害が急速に進むことを明らかにすることができた。Mild PAMによるストレス抵抗性獲得のメカニズムの解明についても、Nrf2-ARE経路の活性化によるHO-1などの抗酸化酵素の発現亢進によることを提示できた。
1.PAM負荷による細胞死に鉄が関与していることを明らかになったことより、PAMの至適化のためには鉄イオンの制御が必要であると判断される。そこで、細胞内鉄貯蔵タンパクであるferritin以外に、細胞からの鉄排出に関わる鉄輸送タンパクの発現やその発現制御機構を検討し、PAM応用に向けた鉄イオン制御に関する情報を提供する。2.Mild PAMを線維芽細胞に負荷した場合のNrf2-ARE経路の活性化について、Nrf2レポーターアッセイやHO-1プロモータ内ARE配列へのNrf2の結合などさらに詳細に検討する。3.PAM中に存在するH2O2、亜硝酸塩等は他の活性酸素種に比べると比較的長寿命の分子種であるが、臨床現場へのPAMの供給を考えた場合は経日的な安定性が必要である。PAM調製後、種々の環境(-80℃~室温,光)で保管した場合の安定性を、上記の分子種の濃度、A549細胞死誘導能を指標に検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (9件) 備考 (1件)
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