本課題では、分散力・強い電子相関・環境効果などを介した「中間的な電子構造」が感応性化学種を支配する重要なキーワードであると捉え、精緻な量子化学計算により感応性化学種の構造と反応、物性を理解することを目的として研究を行った。 本年度はまず、異常に長い結合長を持つ化合物DSAPの構造起源に関する研究を行った。DSAPはX線構造解析により177.1 pmのC-C結合長を持つ化合物である。この異常な結合長は単分子の性質だけから現れるものではなく、結晶のパッキング効果や、分子内および分子間に働く分散力のバランスによって実現されていることを理論・計算化学的観点から示した。具体的には、Grimmeの補正法により分散力を、ONIOM法や周期境界条件計算により環境効果を取り込んだ精緻な量子化学計算により、DSAPのユニットセル中に含まれる4種類の分子の構造を全て精度よく再現することに成功した。 また、強い電子相関を記述するのに有効なHartree-Fock-Bogoliubov (HFB)法を大規模系に適用するため、DC法と組み合わせたDC-HFB法の開発と感応性化学種への応用を行った。代表的な感応性化学種に中間ジラジカル性を持つ分子があるが、これらの適切な構造計算には強い電子相関を考慮することが欠かせない。また強い電子相関を考慮できる大規模系計算法は、これまで確立されていない。本年度は、ポリフェノキノジメタンに対するDC-HFB計算により、本手法が系の大きさに対して線形の計算時間で強い電子相関の効果を有効的に記述できるものであることを示した。今後は、バッファ領域というDC法のパラメータを自動的に決定できるアダプティブDC-HFB法や、大規模強相関系の構造計算を可能とするDC-HFBエネルギー勾配法へと展開し、感応性化学種を中心に応用展開する予定である。
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