公募研究
平成27年度は、Irrにおける酸化機構における反応中間体の構造、機能解析について重点的に研究を進め、これまでの研究で解決すべき点となっていた非ヘム鉄結合部位の生成について検討を行った。平成26年度までの研究成果からは、Irrにおける酸化反応において、ヘムに由来する400 nm付近の吸収帯の強度減少から、ヘムの分解と非ヘム鉄部位の形成が示唆されていたものの、その実験的な確証は得られていなかった。そこで平成27年度では、ヘム鉄及びヘムから遊離した鉄に由来するEPRシグナルを用いて、それぞれのシグナルの定量的な解析を行い、その結果、IrrのHisクラスター領域に結合したヘムがほぼ定量的に分解され、遊離した鉄が非ヘム鉄結合部位を形成することが確認された。この結果により、Irrの酸化修飾機構について、1.ヘムがIrrのヘム制御モチーフ(HRM領域)とHisクラスター領域の2か所に結合、2.HRM領域に結合したヘムは過酸化水素を産生、3.Hisクラスター領域に結合したヘムがこの過酸化水素により分解し、非ヘム鉄結合部位が生成、4.新たに生成した非ヘム結合部位により、過酸化水素がより反応性の高い水酸ラジカルのような活性酸素種に変換、5.この活性酸素種により非ヘム鉄結合部位付近のアミノ酸残基が酸化修飾、6.さらにこのような酸化修飾により、Irrの構造が不安定化し、標的DNAから解離、といった自己酸化修飾機構を提案することができた。以上の結果により、Irrにおけるヘムによる転写調節機構がほぼ解明されたと考えられ、その成果をまとめて論文発表することができた(Sci. Rep. 6, 18703)。さらに、今後はこの成果を用いて、自らのアミノ酸残基を酸化修飾するのではなく、外来性の基質の酸化反応を実現するため、Hisクラスター領域のアミノ酸置換を検討することで非ヘム鉄結合部位付近に基質結合部位の導入を試みる。
2: おおむね順調に進展している
Irrにおける酸化修飾機構の解明については、当初の予定通り、ほぼ解明できた状況である。一方、Irrの立体構造の検討については、そのタンパク質の安定性の問題から、まだ十分に進められてはいない。特に、NMRについては、長時間の測定が必要であるため、その測定条件の最適化が必要である。また、酸化修飾後のIrrの構造解析については、酸化修飾により構造の異なる複数の酸化修飾体が生成する可能性が高く、その分離についても検討が必要である。
平成27年度の結果より、Irrにおける酸化修飾機構については予定通り進めることができたので、平成28年度については酸化修飾後のIrrの構造解析と人工的な基質結合部位の導入について検討を行う。一方、Irrの立体構造解析については、そのタンパク質としての構造安定性が低いことから、不安定タンパク質の構造解析に特化した構造解析手法の導入を試みる。さらに、標的DNAとの相互作用についても検討を深めることで、酸化修飾によるどのような構造変化が標的DNAからの解離に重要なのか、明らかにすることを試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 18703
10.1038/srep18703
http://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/~stchem/pickup/