研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00910
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小林 長夫 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (60124575)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポルフィリン / フタロシアニン / 芳香属性 / 分光学 / 合成 |
研究実績の概要 |
新学術領域研究であるため、個人のグループの研究と、領域グループ間の共同研究に分けられる。個人のグループの結果としては5価りん挿入テトラアザポルフィリン(TAP)が、りんの強い電子吸引性のため最低空軌道の順位が下がり、電子を一つ取り込み、1年以上空気存在下においても安定なラジカルとして存在する事を示した。これはアメリカ化学会誌に掲載された。またりんTAPで環周辺部に電子供与性置換基を導入して、電荷移動吸収帯を出現させ、吸収スペクトルを大きく変える事に成功した。またフタロシアニン(Pc)にスカンジウムを挿入し、シクロペンタジエニル分子を上からかぶせ、フェロセン型分子を合成する事に成功した。またPcにジルコニウムを挿入し、KC8で還元し、段階的にモノ、ジ、トリ、テトラアニオンを形成させ性質を調べる事に成功した。特にトリ、テトラアニオンの特性化はPc類で不安定なため、極めて珍しい化学種である。マグネシウムTAPの環周辺に嵩高い置換基を導入し吸収と蛍光波長の長波長化に成功した。このスペクトルは産業界においてカラーフィルターとして使える可能性を秘めていた。 領域グループ間の研究としては筑波大学の小島先生とのグループと芳香環が縮合した低対称ポルフィリンを合成し、芳香属性と分光学的性質が大きく変わる事を報告した。またこれにより、中心金属のルイス酸性も変化する事を示した。一方新潟大の俣野先生との間ではチオフェンで架橋したジアザポルフィリンの2量体を合成し、2量化する事により、分光学的および電気化学的性質が大きく変わる事を示した。特に分光学的性質では、2量化により単量体では観測されない吸収帯が近赤外領域に現れた。大阪府立大の池田先生とはトリチアヘリセンの分光学的性質について共著論文を出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の概要に述べた様に、個人のグループとしても、また領域間グループの共同研究としても十分なデータが出ている。特に芳香環金属錯体を用いた安定有機ラジカルの発見は画期的で、今後多くの方面で応用が図られると思われる。芳香族錯体の3電子、あるいは4電子還元体の特性化も特筆できる。この様に多電子還元された化合物は不安定で純度の高く測定に耐える種を調製することは困難であるが、KC8というまだあまり知られていない強力な還元剤を用いる事により安定種が得られる事を示せた事は、錯体化学にとって朗報である。KC8を使って不安定多電子還元種を安定に調製し、特性化できる事が知れ渡れば、多くの物理化学者、特に分光学者が興味を持つであろう。スカンジウムを使ったサンドイッチ型有機金属錯体の合成は業界初であり、カラーフィルターに応用可能なスペクトルを示す化合物も廉価な原料から短工程で収率よく調製できる事を示せた事は工業化への可能性を感じる。企業の人々が興味を示している。 現在も個人の研究も順調に進み、グループ間の共同研究の依頼も来ている事から、当初思った通りの成果が上がっていると判断できると思う。
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今後の研究の推進方策 |
高原子価である5価のりんを挿入したPc, TAPの研究を発展させ続ける。これらの化合物ではりんの電子吸引性のために軌道のエネルギーが変わり、そのエネルギー順位によっては太陽電池への応用が考えられる。また通常のポルフィリンとPcの構造中間体であるテトラベンズポルフィリン(TBP)のりん錯体も合成し性質を調べる。Pcの様に最長吸収波長の長波長化が見られるのか、あるいはTAPの様に新たな電子吸収帯が現れるのか、または他の効果が現れるのか興味がもたれる。TBPは環周辺のベンゼン部のみならず、メソ位と言われる位置も修飾可能なため、フェニル基を置換基として用い、合成したTBPの性質のフェニル基位置依存性を調べる。 高原子価ポルフィリン、Pc錯体は蛍光を示す事が知られている。これらは吸収波長を700-1000nmに調整できればガンの光化学治療に使える可能性がある。芳香環周辺の置換基の電子供与性の程度を調節すれば、吸収波長をこの領域に移動する事が可能なため、この可能性を探る。今までより電子供与性の弱いアルキル基を用い、その位置と数を変える予定である。 また芳香環として低対称なものを調製し始めにその性質を調べ、その後高原子価りんを挿入し、錯体にどのような性質の変化が現れるか検討する。高原子価元素の効果はそれが入る芳香環の対称性の違いにより変わってもおかしくないからである。
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