研究実績の概要 |
ロジウム・パラジウム触媒を用いて、高周期ヘテロ元素化合物の高効率合成反応を検討した。本年度は、シクロアルキンにイオウ単体が付加して触媒的に対称1,4-ジチインとチオフェンを与える反応を見出した。アセチレンジカルボン酸とシクロアルキンあるいはビニルエーテルを反応させると、非対称1,4-ジチインあるいは非対称ジヒドロ-1,4-ジチインを選択的に与えることを示した。本反応は、ロジウム触媒がイオウ単体を活性化してジチオロジウム錯体の形成を経て進行することを確かめた。なお、アルキンとイオウ単体に二硫化炭素を反応させると、触媒的にトリチオカーボネートが得られたことから、ジチオロジウム錯体はイオウを一原子ずつアルキンにトランスファーすることが分かった。 この研究の過程で、パラジウム錯体がチオエステルのC-S結合を切断してノルボルネン誘導体に付加する反応を見出した。この方法によって、β-位にチオ基を有するケトンが合成可能になった。これは、チオエステルC-S結合を切断してアルケンに付加した初めての例である。 本研究で見出した高周期ヘテロ元素化合物の触媒合成は、多くの場合に平衡反応であり、効率的に生成物を得るためには平衡を制御する必要がある。本年度は、生成物除去による平衡制御を開発した。ロジウム触媒ジスルフィド交換反応は、3種のジスルフィドをモル比1:2:1で与える平衡反応である。キラルシリカナノ粒子の不斉認識を利用すると、ジスルフィド交換平衡反応下から1種のジスルフィドを分子認識して凝集し反応系から除去できた。結果として、平衡を生成系に移動させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ロジウム・パラジウム触媒系を用いると、有機金属試薬や塩基を用いずに、無機塩を副生しない高周期ヘテロ元素化合物の合成を行えることを示した。このような触媒反応系はしばしば平衡反応系になる。高周期ヘテロ元素化合物は第2周期ヘテロ元素化合物を比較して結合エネルギーが弱く酸素等に不安定である。そのため、キラルシリカナノ粒子の不斉認識を利用して、比較的不安定な生成した高周期ヘテロ元素化合物を選択的に分子認識・凝集し、効率的に平衡移動を行う工夫を行う。本方法論は、結合生成反応および分離過程のいずれも独創性の高い方法論で、新しい成果が期待できる。 最近、高周期ヘテロ元素を二原子有するロジウム錯体を単離し、これが活性前駆体であることを示すことができた。π-逆供与可能なリン配位子とσ-供与可能なリン配位子を多数合成し、活性前駆体の触媒活性を制御する。複数の高周期ヘテロ元素 (S,P,Cl,Si,As,Se,Te等) の活性化を多面的に行い、触媒活性を評価することで、本研究の目的を達成できると考えている。
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