研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00917
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
若狭 雅信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40202410)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 三重項化学種 / 光反応 / 過渡吸収 / ゲルマノン / ゲルミレン |
研究実績の概要 |
高周期14族元素感応性化学種(二価化学種,ラジカル,多重結合化学種等)はその特異な反応性から,新反応開拓のための感応性化学種として期待されている。特に,高周期14族元素は重原子特有の大きなスピン軌道相互作用により,容易に三重項状態にスピン変換する。よって三重項状態からの全く新しい反応が期待できる。しかしこれまで,スピン状態やスピンダイナミクスを考慮した研究はほとんどない。本研究では,電子スピンと強く相互作用する磁場を用いて,高周期14族元素(ゲルマニウム,ケイ素)の三重項感応性化学種の創製と,その反応性ならびにスピンダイナミクスの解明を目標とした。さらに,殆ど利用されてこなかった三重項化学種を用いた新反応開拓を目指した。平成27年度は,以下の3つ課題について重点的に研究を行った。 ① 50 Tパルスマグネットの開発:現有のパルスマグネットを改良し,小型で強磁場を発生できるパルスマグネットの開発を行った。従来よりビッタ板を小型にしたが,ボア(磁場空間)もφ25からφ20にすることで,2500Vの充電でも従来と同様に30 Tを発生できた。 ② 三重項ゲルミレンの発生と反応性の解明:超強磁場により誘起されるスピンクロスオーバー現象を用いた三重項ゲルミレン発生の準備研究として,三重項増感反応を用いたゲルミレンの発生の可能性を過渡吸収スペクトルにより調べた。直接励起と吸収波長は同じだが反応性が異なる過渡種の発生を確認した。 ③ 光化学的手法によるゲルマノンの新規発生法の開発:ゲルマノキサンの2段励起光反応を用いたゲルマノンの新規発生法の開発に挑戦した。 ④安定ゲルマノンの光物性と光反応性:松尾らが開発したEind基を有する安定ゲルマノンについて,光物性と光反応性を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 50 Tパルスマグネットの開発:ボアが小さく従来より低い充電電圧でより高磁場を発生できるパルスマグネットの開発に成功した。一方,構造上の強度の問題で現時点で50 Tを発生することには,成功していないが,さらに改良を進める予定である。 ② 三重項ゲルミレンの発生と反応性の解明:ゲルミレンの吸収波長の変化を期待して三重項増感反応を行ったが,予想に反して吸収スペクトルは変わらないが,反応性が異なる化学種の発生に成功した。三重項であるため,2量化できず減衰が遅くなったものと考えられ,新規な三重項ゲルミレンの発生として期待がもてる。 ③ 光化学的手法によるゲルマノンの新規発生法の開発:ヘキサフェニルジゲルモキサンからのレーザー光照射でトリフェニルゲルモキシラジカルを発生させ,さらに二段階励起でPh-Ge結合を切ってゲルマノの発生を試みた。2段階励起で340nm付近の吸収の吸収の増加が初めて観測され,新しい化学種の生成が確認できた。 ④安定ゲルマノンの光物性と光反応性:Eind基を有する安定ゲルマノンの過渡吸収を初めておこなった。
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今後の研究の推進方策 |
① 50 Tパルスマグネットの開発:ビッター板の構造(特に冷却水用のホール位置)を改良して,構造上の強度を高める。 ② 三重項ゲルミレンの発生と反応性の解明:初めて観測された反応性が異なる化学種について,より詳細に反応ダイナミクスおよび捕捉剤との反応を検討する。さらに,三重項ゲルミレンであれば磁場にによる反応性の制御が期待できるので,磁場効果により三重項であることを明らかにする。 ③ 光化学的手法によるゲルマノンの新規発生法の開発:ヘキサフェニルジゲルモキサンの2段階励起で新しい化学種が発生が確認できたので,その化学種がゲルマノンであるかの確認実験をおこなう。 ④安定ゲルマノンの光物性と光反応性:まったく未知である,ゲルマノンの光物性と光反応性は物理化学的手法を駆使して明らかにする。特に,カルボニル化合物との比較に焦点をおく。 ⑤ 磁場効果を用いた三重項ビラジカルの発生と反応性の解明:オクタイソプロピルシクロテトラゲルマン((iPr2Ge)4)の光反応は,従来,ゲルミレンの発生が主反応であると信じられてきた。研究代表者の若狭は詳細な捕捉実験や物理化学的手法を用いて本反応を再検討し,Ge-Ge結合の結合解裂によるビラジカルの発生が主反応であることを明らかにした。生成する一重項ビラジカルは,ラジカル間距離が短いので交換相互作用が大きく,ゼロ磁場ではスピン変換できず50 ns程度で再結合する。しかし,磁場を印加すると,Zeeman分裂したビラジカルの三重項状態と一重項状態が適当な磁場で交差するので,一重項から三重項へスピン変換する(レベル交差機構による磁場効果)。よって,これまで全く報告例がない三重項ビラジカルを作ることができる。そこで,環状オリゴゲルマンから三重項ビラジカルを発生させ,未知の三重項ビラジカルについて反応性を調べる。
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