研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00923
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁和 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00312538)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 金触媒 / キラリティ / 合成化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、フレキシブルなC2対称骨格を有する低配位ホスフィンの動的キラリティ制御を達成し、さらにその手法を用いて高い性能を示す均一系不斉触媒の開発を目標としている。 1)DPCBにふたつの塩化金ユニットが配位するとC2型に歪んだ構造に変化する。このDPCB-二核塩化金錯体に対してキラルジカルボン酸銀を用いてアニオン交換を行い、片方のヘリシティが誘起されることをCDスペクトル測定によって明らかにし、DFT計算を用いて絶対配置を同定した。また、低い選択性ながらも不斉分子内環化反応を進行させることを見出した。アニオン交換した不斉DPCB-二核金錯体に塩化水素を反応させると対応する二核塩化金錯体を再び得ることができ、誘起された片方のヘリシティが室温で速やかに消失していることをCDスペクトルから確認した。このことから、二核金構造によって引き起こされるDPCBの歪みエネルギーは小さいことがわかり、このことは温度可変NMR測定の結果からも示唆された。 2)P=C-C=P骨格のふたつのsp2炭素に環状構造を導入すると、ねじれたs-シス配座(ゴーシュ型配座)を固定することができ、DPCBよりも大きな二面角をもつC2対称低配位ホスフィンとなる。今回、ケイ素を含む5員環および6員環構造を導入してC2対称P=C-C=P構造を有する化合物を合成し、その構造を確定し、さらに立体配座の安定性に関するNMRデータを得ることができた。続いて二核塩化金錯体に誘導して触媒反応に適用したところ、ケイ素置換基のα効果によって低配位ホスフィン部位のパイ受容性が強化されていることを示唆する知見が得られた。一方、DPCBとは異なり、新たに開発した配位子が単核金錯体を与えることを示すデータも得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規なC2型低配位ホスフィン配位子を予定よりも多く開発しており、またその立体配座に関する特徴的な挙動を見出すことができている。金触媒反応に適用すると、いまのところ従来の配位子を導入した場合よりも生成物の収率が低く、触媒回転効率が低くなっているが、このことはパイ受容性の高まりによる反応基質との強い相互作用がマイナスに作用している可能性がある。一方では、DPCBを配位子とした二核金錯体のヘリシティの安定性に関する知見も得られており、新たな不斉触媒配位子の開発に向けた戦略を立てることができる状態になっている。触媒としてすぐれた機能性を示す物質を見出すには至っていないが、当初の計画では想定していなかった教務深い知見が得られており、総合するとおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
1)新規に開発した環状構造をもつC2型P=C-C=P骨格配位子を導入した二核金錯体のキラリティ制御を達成する。いまのところ、アニオン交換した場合の安定性が低い傾向がみられることから、導入する対アニオンによる安定性の変化を明らかにしながら、不斉構造をもつ対アニオンを導入し、触媒活性を明らかにする。 2)これまでの検討からDPCBが金触媒の配位子としても有用であることが見出されていることから、DPCBの分子歪みをより効果的に活かせる分子設計を進める。リン原子上に更にかさ高い置換基を導入し、錯体の状態で不斉誘起が効果的に発現する誘導体を見出す。
|