研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
15H00925
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
竹内 大介 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (90311662)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 触媒 / 動的錯体 / 不斉重合 / ブロック共重合体 / ポリオレフィン / ポリスチレン / 光学活性ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、外部刺激によって構造を変化させる動的錯体を用いることで、単一のオレフィン単量体から、構造や立体規則性の異なるユニットからなるマルチブロック共重合体を合成することである。 本年度はシクロデキストリン骨格を有するモノホスフィンパラジウム錯体を用いたスチレンの重合について検討を行った。窒素下40 ℃ではほとんどポリスチレンは得られなかったが、1気圧の一酸化炭素雰囲気下ではポリスチレンが得られた。通常パラジウム触媒による一酸化炭素雰囲気下でのスチレン重合では、一酸化炭素との交互共重合体が得られることがほとんどだが、本重合では一酸化炭素の導入は全く確認されなかった。生成ポリマーは、旋光度測定の結果、光学活性であることが分かった。また、NMRから、ポリマーの構造はほぼアタクチックであり、rm二連子の割合が多いことが分かった。一方、一酸化炭素圧をさらに上げ、より高温で反応させた場合にもスチレンの単独重合体が得られたが、旋光度は下がってしまい、ポリマーの構造はややシンジオタクチックとなった。 錯体と一酸化炭素との反応をNMRにより追跡したところ、1気圧の一酸化炭素雰囲気下ではシクロデキストリンのメトキシ基が配位した錯体と、一酸化炭素分子がパラジウムに配位した錯体との平衡にあることが分かった。前者はエナンチオ選択的な連鎖を生成するのに対し、後者は選択性に乏しい連鎖を生成することで、マルチステレオブロックポリスチレンが生成し、それによって光学活性が発現したと考えられる。 本年度はさらに、既に見出しているジイミンニッケル錯体による3-メチルシクロペンテンのregiodivergent型重合について、本新学術領域内の共同研究によりモノマーの挿入における選択性の計算化学による評価を行い、その重合機構の解明を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに見出しているジイミン金属錯体によるオレフィンの重合に加えて、新たにシクロデキストリン骨格をもつモノホスフィンパラジウム錯体が、一酸化炭素雰囲気下で動的挙動を示すことを見出し、さらに一酸化炭素圧や反応温度を変えることで生成高分子の構造を変化させることができることを見出した。この感応性挙動を利用することで、従来大変困難とされてきた、スチレンの重合による光学活性ポリスチレンの直接的合成に成功した。これらの結果は当初予期していなかったものであり、今後さらに展開をはかる。 また、ジイミン金属錯体によるオレフィンのregiodivergent型重合についても、本新学術領域内の共同研究により、その重合機構がほぼ明らかになりつつある。前者の結果については論文として受理されており、後者の結果については論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新たに見出したシクロデキストリンホスフィンパラジウム錯体による重合反応に関して、さらに展開をはかる。ブタジエンやメタクリル酸エステルなど、スチレン以外のモノマーの重合や、それらのモノマーとスチレンとの共重合を様々な一酸化炭素圧、反応温度条件下で検討し、立体の異なるブロックからなるマルチステレオブロック共重合体や、コモノマー比率の異なるブロックからなるマルチブロック共重合体の合成を目指す。ジイミンニッケル錯体、パラジウム錯体を用いたシクロオレフィンの重合についても引き続き検討を行う。分岐構造をもつキラルなアルケニルシクロヘキサンの重合について検討し、新たなregiodivergent型重合を目指す。 また、重合中に外部刺激を加えることによるポリマー構造の変化などについても検討を行う。
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